金融庁は、証券取引法に基づく電子開示システム「EDINET」に、XBRL(多言語に対応した拡張型財務報告用のコンピュータ言語)による有価証券報告書などの提出を可能にする新システム導入の検討を開始した。今後3年程度で、全上場企業がXBRL形式の有価証券報告書の提出が必要になる見通しだ。
数年後、全上場企業に適用の見通し
同庁は、「検討は開始したが、(導入スケジュールなど)今後についてはノーコメント」としている。e-Japan戦略の中で電子政府構築のためのIT化の1つとして、2005年度の概算要求にEDINETシステムの改善予算が計上され、システム整備、試行、運用改善などが順調に進めば、07年4月にもXBRLが全上場企業に適用されるとの見方が広がっている。上場企業の連結子会社や取引企業などは、財務諸表といった書類を取り引きにあたりXBRL形式で提出しなければならなくなるため、上場企業以外でも対応が急ぐ必要がありそうだ。

金融庁の金融審議会金融分科会第一部会は6月23日、日本に事務所を登記する外国企業などに対し、証券発行者が英文の有価証券報告書などをXBRL形式でEDINETに提出した場合、従来提出を義務付けていた「日本語による要約」を不要とすることを答申した。外国の投資家などが、日本の証券市場に対する投資判断を容易にするほか、外国会社の利便性を高めるのが狙いという。
この答申を受けて同庁は、複数の言語表示をワンクリックで翻訳できるXBRLの機能を生かしたEDINETのシステム改善に関する検討を開始した。
国際的には、米国の銀行監督機関「連邦預金保険公社(FDIC)」や英国の「内国税歳入庁」、「オーストラリア金融監督局(APRA)」など、各国の政府機関が財務諸表などの提出でXBRL形式の採用を決定。7月27日には、米国証券取引委員会(SEC)が、04年末から年次報告書などのXBRL形式での提出を容認する検討に入ると発表した。また、05年から国際会計基準採用を義務付ける欧州委員会が、今後2年間のプロジェクトとして欧州のXBRL推進7団体に対し100万ユーロ(約1億3000万円)を支援し、普及を後押ししている。
米国XBRLの日本組織として活動するXBRLジャパンのメンバーである中央青山監査法人の池田太郎・E-Business室室長は、「システム構築や制度上の問題点は多いが、国際的な流れから判断すると、EDINETでXBRLを全面採用するタイミングは07年がタイムリミットだ」と、海外で資金調達する日本企業が、電子開示や融資などの国際標準になりつつあるXBRLに対応できなければ競争力を失う、と警鐘を鳴らす。
国内では、東京証券取引所が03年3月から、企業情報開示システム「TD-net」でXBRLの採用を順次開始。国税庁も今年6月、「電子申告・納税システム(e-Tax)」で、XBRL形式での財務諸表の提出を全国で可能にした。このため、電子申告・納税システムに対応した業務ソフトウェアやサービスなどが、今年に入り急速に増えている。
大塚商会が8月から、XBRLに準拠した財務情報処理ができるERP(統合基幹業務システム)「SMILEie」を発売するなど、上場企業での利用が見込まれるとともに、業務改善の一環として中堅・中小企業でもXBRLの活用が本格化すると見るITベンダーは多い。
今後、公的機関への提出だけでなく、企業間の財務情報のやり取りがXBRL形式になることは必至で、金融庁の検討開始は市場にインパクトを与えることにもなる。