パッケージソフトベンダーが相次いで日本アイ・ビー・エム(日本IBM)との協業に乗り出している。日本IBMが自社のミドルウェアやハードウェアの販売促進を目的に展開するパッケージソフトベンダーの囲い込みに応じたもので、すでに60社ほどが協業を開始している。だが、パッケージソフトベンダーのなかにはこれまでの協業実績の少なさを理由に、「長続きするか分からない」と戸惑いの声も聞こえてくる。(安藤章司●取材/文)
ブランドと販売力の活用で両者にメリット
■週1回の協業ミーティング、DB2対応が重要な戦略に これまで日本IBMとほとんど取り引きがなかったパッケージソフトベンダーが相次いで協業を始めている。
ERP(統合基幹業務システム)パッケージベンダーのワークスアプリケーションズ(牧野正幸社長)は、今年1月から日本IBMの営業担当者と週1回のペースで協業促進のための会議「協業ミーティング」を開いている。ここではワークスアプリケーションズが営業しきれていなかった顧客企業の紹介を受けるなど、活発な情報交換がなされている。
内田洋行(向井眞一社長)は、来年7月に発売予定の次期主力ERP「スーパーカクテル・バージョン5.0」のDB2対応を決めた。これまではオラクル製データベースを中心に開発してきたが、「DB2対応も重要な戦略」(朝倉仁志・情報システム事業部営業推進部部長)とDB2対応を打ち出すことで日本IBMの持つ販売チャネルを活用し、次期主力ERPのスムーズな立ち上げを狙う。
日本電子計算(JIP、小倉勝芳社長)は、オリジナル開発の生産管理システム「ジプロス」の拡販で日本IBMと手を組んだ。ジプロスをDB2に対応させる代わりに、製造業に強い販売チャネルを持つ日本IBMから営業面での協力を取り付けた。JIPはこれまでハードウェア販売の売上高に占めるIBM製品の比率は1割程度で、決して日本IBMと付き合いが深かったわけではない。
ところが、ジプロスの開発を進めていた昨年秋頃、日本IBMの方からジプロスの拡販で協業したいと申し出があった。IBMなどのハードベンダーは、JIPにとってハードウェアを調達する仕入れ先であり、これまでの商談内容は主に仕切値を下げてもらう交渉が多かった。だが、「ハードベンダーが当社のソリューションを販売するとなれば、従来の流通とは逆の流れになる」(木村優治・経営管理本部経営推進室部長)と、新しい流通形態に驚きさえ示す。
ERPパッケージ開発のスワン(中野和典社長)は、年内に投入する主力ERP製品「ニュートリプルアール」の最新バージョンにDB2を採用する。これまでオラクル製データベースに対応していたがDB2に乗り換える。
生産管理システム開発のクラステクノロジー(四倉幹夫社長)は、これまでNECや日立製作所グループとの連携を進めてきたが、新しく日本IBMとの連携ビジネスが本格的に動き始めた。四倉社長は、「主要ハードベンダーのなかで、組織的にパッケージソフトベンダーを支援するところは珍しい」と、他のハードベンダーは属人的な支援が中心であるのに対して、日本IBMは組織的な支援体制を構築していると話す。
■世界市場へ売り込むチャンス、ソフトベンダーにはメリット 日本IBMでは、今年1月からIBM製ミドルウェアに対応したアプリケーションを全国の販売パートナーとの協力により販売する“協業実績”を人事評価の重要な項目に位置づけた。これまでのハードウェアの販売額を中心に評価する手法とは大きく異なる。より多くの優れたアプリケーションを確保することが、販売パートナーの競争力を高め、結果的により多くのIBM製品が売れるという好循環=エコシステムの創出を目指すものだ。
だが、日本IBMがパッケージソフトベンダーや販売パートナーとの全国的なエコシステム構築に本格的に着手し始めたのは「ここ1年ほどのこと」(関係者)であり、実績が出てくるのはまだこれからだ。日本IBMにラブコールを送られたパッケージソフトベンダーの多くは、「世界最大のハードベンダーが中堅・中小のソフトベンダーに声をかけるなんて従来では考えにくいこと。途中で放り出されなければいいが…」(別の関係者)と戸惑いの声も聞かれる。
スワンの中野社長は、「日本IBMの協業プログラムは、短く見積もっても最低2年は続くだろう」と予測したうえで、「彼らが筋道をつけてくれた販売チャネルを伸ばすのも、伸ばさないのも、われわれパッケージソフトベンダーの責任だ」と、日本IBMの方針がどうであれ、拡販のチャンスを自らの力で広げることが大切だと指摘する。
クラステクノロジーの四倉社長は、「グローバル企業のIBMとの協業は、世界市場に自社商材を売り込む絶好のチャンス」と、米IBM本社と主力の生産管理システムの世界展開に向けた協業の準備を進める。IBM製ミドルウェアに対応した業務アプリケーションが世界で通用するレベルに達しているのならば、米IBMとしても協業を拒否する理由はなく、世界レベルでの協業に発展する可能性は十分にある。
7月に中国市場への本格進出を発表したワークスアプリケーションズの牧野社長は、「売れ筋アプリケーションを開発し続ければ、あらゆるベンダーとの協業の道は拓ける」と、中国市場においても国内同様の売れ筋商材となれば、IBMをはじめ有力ベンダーとの協業は可能だと話す。
顧客企業が必要としているのは、業務効率や生産性を向上させるアプリケーションである。パソコンやサーバーがコモディティ化するなか、逆に存在価値が高まるのがアプリケーション分野である。だからこそ、日本IBMは有力パッケージベンダーの囲い込みに力を入れる。優れたアプリケーションを開発しても、実売に結びつかなければ意味がない。ブランド力や販売力があるベンダーの動きに注意を払うことも、パッケージソフトベンダーにとってビジネスチャンス拡大には重要だ。
 | | パッケージソフトベンダー囲い込み | | | パッケージソフトベンダーの囲い込みは、もともとマイクロソフトやオラクルなどOS(基本ソフト)やミドルウェアを開発しているベンダーの“得意技”だった。対応アプリケーションを増やすことがOSやミドルウェアに拡販に結びつくからだ。 日本IBMはこれまで主にハードウェアを販売するルートでミドルウェアの拡販に努めてきたが、ここへきてマイクロソフトやオラクルと同様に、アプリケーション側からの攻略を新しく始めた。これが一連のソフトベンダーとの協業となって表れている。 一方、国産ベンダーは「ミドルウェアはハードウェアの拡販に有効」(関係者)と認めつつも、日本IBMのような思い切った販売手法の転換にまでは至っていない。 | |