ディスカウントストアの出現で秋葉原電気街が変わるか──。ドン・キホーテグループのパウ・クリエーションが運営する大型複合商業施設「ドン・キホーテ秋葉原」が8月14日にオープンした。出店した場所は、東京・秋葉原電気街の中央通り沿い。かつてラオックスのアソビットシティがあった場所だ。電気街の中心地という好立地で、ドン・キホーテの物販フロアだけで初年度の売上高を30億円と見込む。ヤマダ電機をはじめとした家電量販店がロードサイドに大型店を次々と出店し、秋葉原でパソコンや家電機器を購入するユーザーが減少しつつある。大手ディスカウントショップという、これまで電気街になかった業態が大型店舗を出したことで、街全体の集客アップの可能性も出てくる。(佐相彰彦●取材/文)
地区全体の活性化につながるか!?
■電気街最大級の複合施設、地下にはパチンコ店も 8月14日、東京・秋葉原電気街の中央通り沿いに複合商業施設「ドン・キホーテ秋葉原」がオープンした。延べ床面積7410.9平方メートルの大型店舗は、地下1階から地上8階までの売り場構成。このうちドン・キホーテの物販フロアは2-4階部分(売り場面積は1937.2平方メートル)を占める。その他のフロアはテナントとして提供する。8月14日の時点では、すべてのフロアがオープンしたわけではなく、地上1階で「おむす人」と「京たこ」、「ザ・クレープデリ」などの飲食店、2-4階のドン・キホーテ、5階でコスプレ喫茶「@ほぉ~む」と、ゲームおよびアニメのショップ「アキハバラ・ファン・ミュージアム」がオープンするという変則的な幕開け。空きフロアについては、9月中旬以降に順次オープンする予定という。
現段階で新規テナントとして決定しているのは、地下1階に入るパチンコ店「アイランド」だけ。6-7階はアミューズメント関連の店舗になる見込みだが、現段階では未定だ。
パウ・クリエーションにとって、複合商業施設の出店は今回で20店舗目。ドン・キホーテ秋葉原の責任者を務める高橋誠司・パウ・クリエーション・東日本統括部係長は、「秋葉原地区で出店する際には、複合商業施設が最適だと考えていた。秋葉原電気街は、パソコン関連用品やゲームソフト、アニメ、フィギュアなど、さまざまな“顔”を持っている。複合商業施設として“楽しめる店舗”をアピールし、多くのユーザーを獲得する」と、その狙いを語る。
2-4階では、ファッション用品をはじめ、家電機器や時計、ブランド品、スポーツ・レジャー用品、食品、日用雑貨品、ペット用品など、さまざまな商材を扱っており、ドン・キホーテのコンセプトを変えていない。パソコンや家電機器は、あくまでも数多くある商材の1アイテムという位置付けだ。
東京・JR新橋駅前に出店した「銀座ドン・キホーテブランド館」を、地域特性に合わせブランド品専門の店舗としたのと対照的。「電気街で出店したからといって、電気製品の専門店にするといったコンセプトのほうが来店者を限定してしまう。それを避け、既存のスタイルを踏襲した」という。ある商品の価格を安く設定しても、他の商品で粗利を確保でき、全体で利益が確保できるという点でも、さまざまな商材を扱うことがメリットになる点は、他のドン・キホーテと変わりはない。
違いといえば、千代田区制定の「歩き煙草禁止条例」に対応し、1階と5階に喫煙コーナーを設置したことや、海外からの来店者向けに2-4階で免税サービスに対応したこと、さらに電気街で少ないといわれている銀行ATMを6行分設けたことだろう。来店者を増やし、“財布の紐を緩める”策に抜かりはない。
知名度の高さもあり、オープン初日は、特別なセールなどを行なわなかったにもかかわらず、開店直前に100人以上が列を作り、順調な滑り出しをみせた。
■閉店時間は午前5時、深夜営業が電気街に波及も ドン・キホーテの最大の特徴は深夜営業。ドン・キホーテ秋葉原でも2-4階、5階の一部で午前10時から翌朝午前5時までの19時間が営業時間。1階にも午前2時まで営業する飲食店がある。
これまで秋葉原電気街で深夜営業を行う家電量販店やパソコンショップはなかった。秋葉原には「深夜営業」という“文化”がなかったとも言える。そのため、ドン・キホーテが深夜に店を開けても来店者がほどんどないという状況も有り得る。
しかし高橋係長は、「深夜営業では、終電に乗り遅れた会社員や学生などを想定している。いつでも営業しているという安心感で、秋葉原電気街を訪れる客も増えるのではないか」とみている。
深夜営業という“異文化”が持ち込まれたことで、電気街のパソコン専門店にも動きが出てきた。ショップ関係者の中には、「深夜に多くの客が集まるようであれば、営業時間の延長も検討している」と、ドン・キホーテの集客力を当てにする向きもある。
パソコン市場が2000年をピークとして成熟傾向が出てきたことに加え、郊外の家電量販店へ客が流れるようになっており、秋葉原電気街でパソコンや家電機器を購入する客が減少しつつある。
高橋係長は、「秋葉原はJR山手線と総武線が交差するだけでなく、地下鉄も通っており、全国でも有数の乗降客数がある。平日や土日に限らず、“人が集まる街”という点では申し分ない」とし、加えて「来年以降は、駅前にIT拠点の『秋葉原クロフィールド』がオープン、さらに『つくばエキスプレス』が開通する。集客はさらに高まるだろう」と予想する。
ドン・キホーテの出店で、パソコンユーザーやアニメファン以外の顧客層が電気街を訪れる機会が増える可能性が出てきた。既存のパソコンショップなど、秋葉原電気街の新たな客層をうまく顧客として獲得できれば、沈滞気味の“電気街”の活性化が図れることにもなる。
 | | 各店舗で独自に仕入れる形態 | | | ドン・キホーテでは、戦略的な商品以外は各店舗の仕入担当者が仕入れの責任を任されている。各店で独自に仕入れる形態は、その店ならではの目玉商品として販売することで新しい客の獲得やリピーター増につながるメリットがあるという。ある店舗の独自商品がほかの店舗でも人気が出れば、戦略的な商品となる、多くの店舗が扱うことになり、大量仕入で粗利率を高めることになる。 新店舗は当面、他の店舗で扱っている商品を扱うようだ。現段階で販売しているデジタル関連機器は、DVDレコーダーや電子辞書、メディア、消耗品など。しかし、ユーザーニーズが高まれば、新しい商品の仕入れも検討するという。 電気街という特性上、パソコンユーザーが来店する機会が多い。ユーザーニーズに対応し、近い将来はパソコンを販売する可能性もあり、電気街のパソコンショップと競合する場合もある。競争の焦点はズバリ“価格”ということになる。 | |