本田技研工業が運営するサーキット「ツインリンクもてぎ」(栃木県茂木町)が新しいモータースポーツの楽しみ方をユーザーに提供している。2004年4月からインテルテクノロジによる無線LANを利用した情報提供システム「Pit Live TV powered by Intel」を導入。サーキット全体を無線LAN環境とし、リアルタイムの映像をマルチキャスト配信。観客はノートパソコンやPDA(携帯情報端末)でレースに関する情報や映像を入手できるようになった。(佐相彰彦)

パソコン持ってサーキットへ行こう
■レース場に無線LANを インテルの「PIT Live TV powered by Intel」を導入したのは、ツインリンクもてぎの本間公康・営業部営業課チーフによれば、「付加価値サービスを提供することが観客数を増やすカギとなる」からだという。
ツインリンクもてぎは、今年4月にこのシステムを導入。それ以前のレース観戦では、インターナショナルなビッグレースでも情報は場内放送などに限られていた。しかし、「無線LANの環境を構築すれば、観客がノートパソコンやPDAなどを使って、欲しいタイミングで欲しい映像や情報を入手できる」と、サービスのアップが図れたことを強調する。

ツインリンクもてぎは、97年にオープン。コース長4.8キロメートルの「ロードコース」と内側に2.4キロメートルのオーバルコース「スーパースピードウェイ」の2コースがある。コースが長いだけに、場所によってはレースの状況を把握できない場合も多い。
今回のシステム投資額は1億円以上。インテルを中心に、NTTブロードバンドプラットフォームや沖電気工業などがシステム構築にあたった。放送局はニッポン放送プロジェクト。サーバーの提供で日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が協力している。
■2万台のノートPCをカバー
サーキット内では、グランドスタンドにWIPAS-AP(ワイヤレスIPアクセスシステムのアクセスポイント)を取り付け、入場ゲートをはじめ、V字コーナーや90度コーナーの“見所”に計40台のIEEE802.11b/gの無線LAN機器をアクセスポイントとして設置。WIPAS-APから最も離れている場所にはWIPAS-WT(ワイヤレスIPアクセスシステムのワイヤレスターミナル)を取り付けた。「1か所のアクセスポイントあたり端末500台まで違和感なく映像が見える。2万台のノートパソコンやPDAをカバーできる」(本間チーフ)という。
特徴的なのは、インターネットで映像を配信しているのではなく、イントラネットを活用していること。「インターネットで配信した場合、サーキットに来なくても観戦が可能になってしまう。あくまでも、レースを見に来た観客向けのサービス」(本間チーフ)と位置づけている。

利用者が最も多かったのは、6月に開催された「全日本選手権フォーミュラ・ニッポン第3戦」。約1000人の観客が利用した。9月開催の「全日本GT選手権第5戦」では、「3000人以上の利用者を期待している」(本間チーフ)としている。
■よりきめ細かいサービスも インテルでは、「鈴鹿サーキットで行われた8時間耐久ロードレースや、ゴルフのフジサンケイクラシックなど、これまでも携帯端末で映像を見ることができるシステムを構築してきた」(江頭靖二・マーケティング本部モバイル&ワイヤレスマーケティングインフラストラクチャ・プログラム・マネージャ)という。
「しかし、いずれもそのレースや試合が終了したらシステムを取り外す臨時の設置だった」ことから、「サーキット全体を恒久的に無線LAN環境にする大規模なシステムはスポーツ関連では初めて」と、ツインリンクもてぎでの導入事例をきっかけにユーザー顧客を増やしていきたい意向だ。

ツインリンクもてぎでは、「今後は会員制度を設け、より詳細な情報の提供や、自分が観に行ったレースの中継を自宅でも見れるようにするなどのサービスを提供する」(本間チーフ)ことを検討している。
スポーツ観戦では、感動する場面などが影に隠れて見えなかったり、見落としてしまうケースもある。こうした場面をパソコンやPDAなどで再度見ることができれば、スポーツ観戦がもっと楽しくなる。加えて、選手の過去データを把握しながらの試合観戦も、一味違った視点で試合を楽しむことができる。レーシングチームがパソコンでマシンの状態をマネジメントするのはもはや当たり前。これからは観戦する客もパソコンを持ってくる時代になる。