NTTドコモ(中村維夫社長)が今秋に発売する「FOMA N900iL」。携帯電話とコードレスIP電話機能を合わせ持つ、業界初の無線LAN機能を内蔵した第3世代携帯電話だ。NTTドコモでは、無線LANシステムとの連携が必要になることから、IP-PBX(IPを用いた構内交換機)などと組み合わせたコードレスシステムとしてパッケージ化。直販のほか、システムインテグレータなどのパートナーを通じ販売していくことで、「手薄だった法人向けビジネス」を強化する。情報と通信の融合戦略を加速させる大手ITベンダーやシステムインテグレータにとって、コードレスIP電話の登場はビジネス拡大の絶好のチャンスでもある。この端末と組み合わせた新ソリューションの開発に、早くも動き出している。(谷畑良胤、木村剛士●取材/文)
情報と通信の融合に一役
■利用には無線LAN環境が必要、ウェブアプリなども利用可能 新端末についてNTTドコモでは、「ビジネスシーンにマッチする携帯電話がこれまでなかった。そんな状況下、ビジネス用途を意識して開発した初の法人向け携帯電話」(三木茂・法人営業本部プロダクトビジネス部長)としており、「法人市場開拓の中核商材」(三木部長)と位置づける。
今秋から販売開始する予定で、無線LANシステムやIP電話の導入を検討している企業をターゲットに、発売後1年間で端末数10万台の販売目標を掲げている。
ただ、社内に無線LANシステムがなければ、この新端末の特徴は生かせない。このため、NTTドコモでは携帯電話だけでなく、IP-PBXや認証サーバーなどと組み合わせたコードレスシステム「パッセージデュプレ」として売り込む戦略を立てた。
「ターゲットは法人市場」と明確に位置づけていることから、直販のほか、システムインテグレータなどのパートナー経由の間接販売も手がけていく考えだ。パートナープログラムを用意し、「パートナー企業が、携帯電話とIP-PBX、認証サーバーに加え、各社のウェブアプリケーションなどと組み合わせた独自のソリューションとしての売り込みを後押ししていく」(三木部長)。
N900iLは、社外では通常の携帯電話として利用し、社内ではコードレスIP電話として利用できるのが最大の特徴。無線LAN経由、iモード経由でウェブアプリケーションやグループウェアが利用できるほか、ユーザーが社内にいるか、社外にいるかを確認できる機能や、インスタントメッセージ機能も付加した。「企業内のコミュニケーションを効率化できる」(三木部長)付加価値を盛り込んだことで、ビジネス用途向けを強くアピールする。
IP電話システムの需要拡大を背景に、情報と通信分野のソリューションを組み合わせた提案が重要になっているシステムインテグレータにとっては、パッセージデュプレは、各社のソリューションメニューを広げる格好の商材となる。そこで、この商材を自社ビジネスに生かそうと、早くも動き始める企業が出てきた。
NECは、情報と通信の融合ソリューション「ユニバージュ」に、N900iLを加えた新パッケージ「ユニバージュ FOMA連携ソリューション」を開発した。「情報と通信の融合戦略に、モバイルの要素を付加できる格好の商材」(NEC)として、N900iLをユニバージュ拡販の起爆剤にしたい考え。現在、パッセージデュプレに対応しているIP-PBXはNECのユニバージュSV7000だけだが、NTTドコモではN900iLのVoIP技術に関する仕様を公開しており、今後IP-PBXベンダーがN900iLに対応した製品を開発する動きが加速すると見られる。
■固定電話が不要に、CTIと連動したソリューションも CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)を用いた業務システムの開発など、情報と通信の融合を6年前から進めてきた大塚商会は、通話料金の削減が図られる商材として、N900iLをソリューションメニューに組み入れる検討を開始した。
大塚商会では、オフィス環境が変化し、社員のデスクを固定しない「ノンテリトリアルオフィス」を採用する企業が増加傾向にあり、固定電話が不要になってきたこともN900iLの需要が今後拡大する要素に挙げる。また、来年4月に個人情報保護法の施行を控え、「プライバシーマーク(Pマーク)取得を検討する企業が多く、社内の文書管理が重要になり電子化が進む」(世間瀬秀行・マーケティング本部ブロードバンドプロモーション部シニアコンサルタント)ことで、電子ドキュメント管理に関するシステム構築と合わせ、ノンテリトリアルオフィスにする傾向が強まる。こうした際に、N900iLのような端末の需要は増えると予測している。
同社では、NTTナンバーディスプレイ(発信者電話番号表示サービス)を利用し、発信者の電話番号をもとに顧客の属性データや購入実績をパソコン画面に表示できるCTIシステム「スマイルα/CTI」とN900iLを連動させた新ソリューションの開発を検討開始した。
需要が急拡大するIP電話システムをコードレスで実現できる携帯電話の登場は、情報と通信の融合をモバイル環境で実現できる有力ツールとして、ITベンダーからの注目度は高い。一方、「法人営業が手薄だった」NTTドコモにとっては、念願の法人市場を拡大するうえで強力な切り札となる。双方にとってメリットが大きい新端末を、今後ソリューションビジネスとして成長させていくには、NTTドコモがいかにパートナーとの協業体制を密に築いていけるかが焦点になる。
 | 個人向け市場は飽和状態 | | | 携帯電話事業者各社は個人市場が飽和状態に達しつつあることから、法人市場に期待を寄せる。こうしたなか、NTTドコモやKDDIなど各社が法人市場に力を入れ始めているもう1つの背景には、法制度改正がある。 昨年7月に成立した「改正電気通信事業法」が今年4月1日に施行され、事業区分の撤廃に伴う相対契約が全面解禁された。これにより、通信事業者とユーザーとの交渉次第では、通話料金の値引きやサービスのカスタマイズを自由に行うことが可能になった。 |  | しかし、「相対契約=値引き」となれば、通信事業者の収益基盤を揺るがしかねず、端末や業務システムと連動した付加価値分野で収益を上げる構造改革を迫られる。 今回、NTTドコモが発売するN900iLは、ビジネスシーンでの利用を最大限考慮した付加価値の生みやすい商材として、その登場は必然的といえる。NTTドコモだけでなく、KDDIなども、同様の端末を法人市場に投入する計画を打ち出している。 | |