マイクロソフト(マイケル・ローディング社長)と日本ヒューレット・パッカード(日本HP、樋口泰行社長)が今年2月、中堅・中小企業市場を開拓するため共同で開始したISV(独立系ソフトウェアベンダー)支援制度「FLP(フロント・ライン・パートナーシップ):ISVパートナプログラム」。技術面はもとより、販売支援や保守・サポートまでを一貫支援するこれまでにない仕組みとしてISVの関心も高い。また、マイクロソフトとHPで事前動作検証を行ったISVのソフトを活用した「推奨構成システム」を各ISV別に作る作業も始まった。システム提案前の検証内容が明確でISVの販売サイドにとっては、「システム提案までの時間短縮」につながると好評のようだ。(谷畑良胤●取材/文)
技術・販売・導入の一貫支援を実現
■業種・業態別に「テンプレート」用意、包括的なサポートを体系的に提供 「HPサーバーとマイクロソフトOSのプラットフォーム上で技術検証済み」──。ピーシーエー(PCA)のERP(統合基幹業務システム)「Dream21(ドリーム21)」の、PCAが作る販売店用チラシには2か月前から、このタイトルが新たに加わった。ドリーム21にサーバーとOS、データベース(DB)などを組み合わせたシステムが、日本HPの天王洲ソリューションセンターで事前に動作検証やパフォーマンス検証を経て、ISVパートナプログラムの「推奨構成システム」として認定された証だ。
従来、システム構築を検討中の企業に対してシステムインテグレータやディーラーなどの販売サイドは、パートナー関係にあるISVやハード、OSなどのメーカーやベンダーを交えて、その企業に合ったシステム構成を一緒に練り上げ、提案書を企業に提示する。
だが、提案書を作るまでには、複数のメーカーやベンダーとの交渉が必要で、通常1か月以上を要する。「中堅・中小企業向け市場では、このタイムロスでビジネスチャンスを失うこともあった」(マイクロソフトの日詰廣造・ビジネスパートナー営業本部ISVソリューション推進部部長)と、システム提案のスピード化を図るのが、ISVパートナープログラムの役目の1つだ、と説明する。
ISVパートナプログラムに加盟するISVは、マイクロソフトと日本HPの支援を受け、各ISVが得意とする業種・業態や企業の規模に合わせた推奨構成システムとなる「テンプレート(ひな形)」をあらかじめ数多くつくる。販売パートナーはそのテンプレートを使い企業へ営業していく。マイクロソフトと日本HPはこれに加え、販売支援、導入サポートまで包括的なサポートを体系的に提供する。
マイクロソフトと日本HPは8月、「FLP:64ビット・ウィンドウズISVパートナプログラム」を開始した。64ビット版のウィンドウズサーバーと、インテルの64ビットMPU(マイクロプロセッサー)「Xeon(ジーオン)」を搭載する日本HPのIAサーバー「プロライアント・ファミリ」を、2月からスタートしたISVパートナープログラムを活用して売り込みを図るのが目的。「64ビット製品は、機能やコストの面で32ビット製品より優れているにも関わらず、拡販に苦戦している」(マイクロソフトの藤本浩司・サーバープラットフォームビジネス本部ウィンドウズサーバー製品部マネージャ)のがその背景にある。
■プログラム参加には売上高目標、64ビット版企業システムの検証も 当初2月にスタートしたISVパートナプログラムにはPCA、オービックビジネスコンサルタント(OBC)、応研、大塚商会、シー・イー・シー(CEC)、ソフトブレーン、ビジネス・インフィニティ、フルキャスト・テクノロジーの8社が参加した。今回、64ビット版プログラムの発表時には、これら8社に加えてSAPジャパン、シマンテックなど9社が新たに参加を表明、現在加盟17社となっている。来年6月までには、すでに「推奨構成」を実現しているPCAとOBC以外のISV10社で、テンプレートを出すための検討が進められている段階だ。
ただし、ISVパートナプログラムに参加するためには、推奨構成システムでの売上高目標が課される。設定される「数値目標の条件は厳しい」(日詰部長)としているが、それでも参加を希望するISVはさらに増えそうだという。
ISVパートナプログラムについて、PCAの折登泰樹・常務取締役営業本部長は、「これまでは、システム提案のハード構成を検討する段階で時間がかかることが多かった。だが、(今回の推奨構成システムのテンプレートができたことで)ドリーム21の仕様に最適なハードとOSをスピーディに推奨でき、販売パートナーの営業活動が円滑になる」と期待する。マイクロソフトの日詰部長も、「提案がスピーディになるだけでなく、受注後のシステム構築も早くなる」と、テンプレートによる提案効果は大きいという。
8月にスタートした64ビット版のパートナープログラムでは、共同で専門チームを立ち上げ、ISVに対し技術支援を行う。「全体のシステムを一挙に64ビット版にするには、企業ユーザーの抵抗が大きい。このため、部門別にできるところから64ビット版にしてもらうため、32ビット版と64ビット版との互換性を高める」(日本HPの春木菊則・マーケティング統括本部アライアンスマーケティング本部マイクロソフト・アライアンスマネージャ)と、32ビットと64ビットが企業のシステムで共存していくための検証作業に力を入れていく。
一方、この2つのISVパートナープログラムに対して、問題点を指摘する声がないわけでない。マイクロソフトが推奨構成システムで使用するDB「SQLサーバー」が、「中小企業が導入するには値段が高すぎる」(あるISV幹部)という意見や、ハードベンダーが日本HPだけであることから、「ハードの選択肢が狭い」(ある販売店の幹部)という不満もある。しかし、ISVと販売パートナーは、「システム提案に至る時間が短くなり、営業がしやすくなる」と、ISVパートナープログラムに期待を寄せる。
マイクロソフトと競合する日本オラクルやLinux陣営でも、中堅・中小企業市場向けISV支援を強化し、技術的なプログラムを強化するベンダーが増えてきた。だが、マイクロソフトと日本HPにように、ISVに対してシステム企画から拡販、導入サポートまで一貫して支援する仕組みはない。両パートナープログラムの効果が出れば、日本オラクルなどが、これと同じ仕組みを導入してくる可能性も出てきそうだ。
 | | 日本独自のプログラム | | | | マイクロソフトと日本HPの「ISVパートナプログラム」は、両社の世界的な戦略提携「フロント・ライン・パートナーシップ(FLP)」に基づき、日本に限定して中堅・中小企業市場向けに仕立てたもの。ISVに手を差し伸べるのも日本オリジナルだ。マイクロソフトと日本HPは、このプログラムのために、数十人の専門チームを共同で立ち上げ、技術支援だけでなく、マーケティングも強化し始めている。現在、ハードメーカーの参加は日本HPだけだが、「技術支援体制などで条件が整えば、他のハードメーカーも参加できる」(マイクロソフトの日詰廣造部長)と、門戸を開いている。 | |