プロマネ徹底し問題案件発生防ぐ
選択と集中による採算アップが共通認識に
システムインテグレータ(SIer)の多くが経営課題に掲げてきた赤字プロジェクトの一掃。2005年度(2006年3月期)をめどとして、こうした仕掛損の“根絶”に乗り出したSIerは多い。このほど発表された中間段階の業績を見ても赤字案件発生を防ぎ利益につなげた企業も増えてきた。ソフト開発案件が赤字プロジェクトに陥る危険は、常に潜んでいる。プロジェクトマネジメントの徹底や、「これまでのように何でも受注するのではなく、売上高を落としても採算重視」というまさに“選択と集中”がSIerの共通認識となっている。(川井直樹●取材/文)
■富士通は下期から1億円以上のシステム開発も監査対象に 昨年度、ソリューション/システムインテグレーション(SI)部門で赤字プロジェクトが発生したことで、その補填に05年3月期段階で280億円もの引き当てを計上した富士通。今年4月に発足したSIアシュアランス本部が中心となって、赤字案件の一掃に乗り出している。
富士通は、01年4月に「SIプロフェッショナル室」、04年2月には「ビジネスリスクマネージメント室」、同6月には「赤字はシステムエンジニア(SE)だけの問題ではない」と判断して営業とSEの一体化を図るなどの対策を講じてきた。しかし、これらの施策も赤字プロジェクト一掃にはつながらなかった。「前進はしたが失敗だった面もある」(八野多加志・富士通SIアシュアランス本部本部長代理)。
このため今年4月に社長直轄の組織である、「SIアシュアランス本部」を発足させ、商談からプロジェクトの立ち上げ、実行の各フェーズでの監査を本格的に開始した。これまで事業本部傘下の「室」といった単位だったものを、「本部」組織に格上げして社長直轄とし、問題のあるプロジェクトに対して常務以上が出席する経営会議での判断を仰ぐ体制を作った。
なかには「赤字覚悟で戦略的に獲得する案件もある」(大手SIer首脳)というケースがないわけではない。しかし、この場合でもプロジェクトマネジメントをきっちりしなければ、予想以上の赤字拡大に加え、挽回のために優秀なSEなどを割かなければならず、他の案件まで影響を受けるといった事態に陥る可能性が大きい。
富士通のSIアシュアランス本部に認められた権限は7つある。(1)全商談の状況を把握できる、(2)3億円以上の商談に対し見積り結果、契約条件、リスク判断による商談推進の可否判定、(3)3億円以上の商談の提案書、契約条件の最終承認、(4)ビジネスグループ、ビジネスユニットのプロジェクト進行状況をウェブでチェック、(5)必要があれば立ち上げ時、問題発生時の顧客折衝に参加、(6)赤字戦略商談・問題プロジェクトについて経営会議への付議、(7)赤字額が1億円程度の場合はSIアシュアランス本部がリスクを見極めて推進判断できる-などだ。
「赤字を見込むプロジェクトの場合、赤字額を本部で補填しプロジェクトの見かけ上の赤字を消す。赤字を最低限度に押さえ込むことも必要」(同)という機能も果たす。損益ゼロからスタートさせるという発想だ。また、「場合によってはプロジェクトを中断し、それまで顧客が払った費用を返還する」(同)ところまで徹底する。中断した上で、再開に向けて顧客と綿密に相談し、双方に存在する問題を一掃し完成を目指すことになる。
下期は対象プロジェクトを1億円以上に広げ、問題プロジェクトとならないかウオッチしていく方針だ。「1億円以上とすることで、単独ベースで半分以上のプロジェクトを網羅することになる」(同)。さらに地方のSE会社などに対象を広げていくことで、富士通グループとして「赤字プロジェクト一掃」をより確実にしていく考えだ。
■人材育成や顧客のITスキル向上も不可欠 プロジェクトマネジメントの強化は、赤字プロジェクト一掃には重要な要素となる。富士通をはじめとした大手だけではない。中堅SIerなどでも、今期で赤字プロジェクトを一掃しようという取り組みが活発化している。
情報技術開発(TDI)の06年3月期中間決算は、売上高90億4200万円(前年同期比9.8%増)に対して営業利益は3.4倍の6億6400万円に拡大した。営業利益大幅増の要因は「赤字プロジェクトゼロを達成し、採算性が飛躍的に向上したこと」(竹田征郎・TDI社長)。案件の検討やリソースのアサイン、提案内容の精査、進行中のプロジェクトの多面的な検証などによって問題プロジェクトを押さえ込んだという。
日本電子計算(JIP)は、赤字案件の見直しを図ったことで今中間期に営業黒字転換を果たした。売上高は172億9700万円(同3.4%減)と減収だったものの、前年同期の営業損失14億9100万円から営業利益2億2300万円を達成。これまで赤字案件が発生していた原因を、内池正名・JIP社長は、「少ない人数で時間との戦いでプロジェクトを進めてきた。優秀なSEの個人技に頼る部分が多かった」ことが赤字プロジェクトに陥る原因だったとして、今後は人材育成を強化する方針だ。
トラブルシューティングのために優秀なSEを割いて全体のプロジェクト進行に影響をきたしたり、多くの人材を投入することによるコスト発生だけが問題なのではない。こうした対策をとっても納期遅れや、トラブルが継続すれば顧客から違約金や損害賠償を請求されるケースも出てくる。もちろんSIerの信用にも関わってくる。
SIer自身も反省しているが、「これまでの顧客の継続発注の場合、お互い理解しているつもりで契約が甘くなったケースがないわけではない」(中堅SIerトップ)という。また、顧客の側にも情報システムに関して知識が乏しく、結局、プロジェクトの丸投げや急な仕様変更などを迫ってくる場合も多い。
日本型の受発注を変えなければ、常に不採算の危険性は潜んでいる。
 | 進行基準の採用 | | | | | プロジェクトマネジメントを遂行する上で、基本的なデータとするために会計方法として進行基準の導入を図る動きがある。完成ベースで売上高を計上する検収基準に対して、プロジェクトの進行に合わせて段階的に売り上げを計上する会計方法だ。 富士通は今年度からソリューション/SI部門に関してはこの進行基準を採用して売上高に計上している。「この段階まで進めば売上高はいくら、という仮想の数字を設定し売上高に計上する。その段階での原価率を計算すれば、進行に応じて赤字になっているかどうかわかる」 |  | (八野・富士通SIアシュアランス本部本部長代理)というわけだ。不用意に赤字が拡大することを防ぐことができる。 富士通ビジネスシステム(FJB)も今期から3000万円以上のプロジェクトについて進行基準を採用している。 一方、JFEシステムズは製造業向けなどで2-3年にわたる大規模な開発案件について、進行基準を取り入れる検討を開始した。数年にわたるような大規模案件の場合、赤字が発生しそうな時点で対策を講じなければ、赤字が大幅に拡大することにつながりかねない、というわけだ。 | | |