保守サービス事業に変革が迫られている。レガシーシステムからオープンシステムへの移行と、ハードウェアの価格下落によるサービス単価の落ち込み。加えて、保守サービスの契約自体も減少傾向にある。保守サービスを取り巻く環境は依然厳しい材料が多い。かつて安定的な収益が見込める事業といわれた保守サービスも、今や利益捻出が難しいビジネスへと様変わりした。保守サービスの現状を追う。(木村剛士●取材/文)
修理主体のCEに求められる「営業力」
■安定したビジネスが今や様変わり オープン化などが足かせに 保守サービスは、納入された情報システムやネットワークの保守・修理を提供するサービスで、情報システムを構築した際、大半がセットで販売される。各メーカーはそれぞれ保守サービス専業会社を持っており、本体やグループ会社がシステムを組んだ後に、保守サービスを系列会社が提供する構図が一般的だ。契約方法はそれぞれで、年間の保守契約を結ぶケースや、機器が壊れた際スポット的に依頼する場合などさまざま。システムを組んだ際には、受注に結びつくケースが多いだけに、安定的なビジネスとしてこれまで成長してきた。
しかし、その高収益ビジネスだった保守サービスにも変革が迫られている。高収益どころか、売り上げ拡大は難しく利益捻出も厳しい状況になってきたのだ。その理由はいくつかある。
まず、大きな理由は情報システムのオープン化にある。ハード保守サービスの単価は、基本的にハードの単価と比例する。ハードの価格が下がれば保守サービス単価も下がる。メインフレームなどの高額なレガシーシステムから、価格が急激に下がりつつあるIAサーバーなどを使ったオープンシステムに移行する顧客が増えれば、自ずとハード保守サービスの売り上げは下がる。
保守サービス最大手、NECフィールディングの片山徹社長は、「保守サービスの単価は前年度比10%減となっており、この下落率はしばらく続くとみている」と打ち明ける。
厳しい材料はそれだけではない。ハードの性能自体が上がって機器が壊れにくくなり、年間で保守契約を結んでいた企業が、壊れた場合に修理を依頼する「スポット型」に移行する例が増えており、顧客単価が下がっているのだ。NECフィールディングでは、この製品品質向上による修理サービスの売上高は昨年度比で54億円も減少した。
■事業の領域拡大でサバイバル システム構築を手がける企業も この厳しい状況に立ち向かうために、保守事業会社はそれぞれ手を打ち始めている。保守サービス事業以外のビジネス拡大だ。保守サービスに依存する体質からの脱却を図り、情報システムの遠隔監視などの運用サービスや、情報システム構築事業、システム設計のためのコンサルティングサービスなどを強化する方針を各社共通して推進している。
日立系保守サービス会社の日立電子サービスは2005年10月、オープンシステム構築事業に強いグループ会社の日立オープンプラットフォームソリューションズ(日立OPSS)を吸収。日立製品に依存しない情報システム構築から保守サービス事業を一貫して進める体制を築いた。
日本ユニシス系保守事業のユニアデックスも、今年7月1日にインターネット関連事業に強い日本ユニシス情報システムを取り込み、事業領域を大幅に広げた。
また、リコー系のリコーテクノシステムズ(RTS)は、05年10月にリコーグループの保守サービス部門をRTSに一本化し、約470拠点・CE約5000人体制に拡充。保守サービス網を広げるとともに、CEが修理業務だけでなくITサービスも売り込めるように再教育を手がけ始めている。CE5000人のうち「来年度までに修理業務と営業力を兼ね備えたCEを4000人まで増やす」(川村收社長)方針を示し、保守サービスに依存しない基盤づくりを一気に加速させる方針だ。RTSでは、保守事業よりもITサービスの伸びが大きく、今年度は全売上高のうち約45%をITサービスが占める計画だ。
NECフィールディングの片山社長は、「情報システムを納入する際のライフサイクルの一部だけを抜き出してビジネスを展開するのは無理がある」と保守事業以外へのエリアの拡大を示唆している。
各社は、保守サービス事業が急速に回復することはないだろうと見ており、情報システム構築サービスなど保守サービス以外の事業領域の拡大に力を入れている。だが、その効果がはっきりと見え始めた企業はまだない。オープン化の進展が今後止まることは考えにくい。保守サービス会社のあり方が問われている。
| | | 読者の眼 | カギを握るのはCEのスキル向上 | 保守事業会社にとって一番の強みは全国に張り巡らされているサービス拠点とそこが抱えるCEたちだ。全国展開するSIerでも到底及ばないほどのCEを全国津々浦々に抱えており、数時間以内で駆けつけられる体制を構築している。 保守サービス事業が厳しい状況にあるなか、そのサービス拠点に所属するCEに求められるスキルも変わりつつある。CEの一般的なスキルである修理技術だけでなく、営業力を求め始めて |  | いるのだ。「顧客先に頻繁に出向くCEは営業よりも顧客先との距離が近い。メンテナンス業務の間に顧客に提案する力があれば、他のビジネスにつながる」というのが各社の見解だ。 リコーテクノシステムズや日立電子サービスなどはとくに営業力を持つCEの育成に積極的だ。保守サービス会社のビジネスモデルが変わるなか、CEに求められるスキルも変わり、多種多様な能力が必要になっている。 | | |