BPR対策が新たな波を起こすか
来年度から具体化進むとの見方も
大手ITベンダーは自治体から新たな投資を引き出す働きかけを強めている。平成の市町村合併に伴うシステム統合需要が昨年度で終息。これに次ぐ新たな“波”として本命視されているのが自治体のBPR(業務改革)に伴う新規のIT投資だ。早ければ来年度から予算措置が本格化すると予測するベンダーも出てきており営業活動が活発化している。(安藤章司●取材/文)
■合併に伴う業務再構築が活発化 人員削減によるIT需要に期待 何か手を打たなければ自治体のIT投資が縮小するのは明らか──。大手ITベンダーの幹部たちは危機感を募らせている。
国づくりにITを活用する国家プロジェクトのe-Japan戦略が打ち出された2001年当時は、電子申請や申告など各種手続きをオンライン化する電子自治体関連の投資が期待された。だが、今のところ大きなうねりにはなっていないのが実情だ。
市町村合併で行政の広域化が進むことが予想されていたため、ITを活用して住民サービスの維持向上を狙ったものが電子自治体のコンセプトである。しかし実際には、「投資は限定的」(NECの青木英司・公共ソリューション事業部事業推進部長)との見方が有力視されている。
その一方で自治体のBPRが新たな大型需要として急浮上してきた。
市町村合併で規模が大きくなったケースでは、旧自治体との業務の重複部分や人員配置の適正化など業務の大幅な見直しが進む可能性がある。また07年から始まる団塊世代の一斉退職を見据えた構造改革、従来は行政が行っていた業務を官民双方による競争入札で担い手を決める市場化テスト、会計基準の見直しなど自治体運営にさまざまな変革の機運が高まっている。
業務の効率化や市場化テストが積極的に行われれば人員削減にもつながる可能性がある。財政ひっ迫で職員の採用を抑制する自治体が多いと見られており、これに来年以降の団塊世代の引退が加わる。「人手が減った部分はITを活用して補わざる得ない」(富士通の西原寛治・自治体ソリューション事業本部営業統括部長)とITベンダーは手応えを感じている。
メインフレームのオープン化などレガシーマイグレーションやオープンソースソフト(OSS)の採用などの動きは従来通りある。
だが、こうしたITシステムそのものの見直しは、主に維持運用費の削減でしかない。自治体BPRは運営に関わるすべてのコスト削減を目指すものであり、自治体運営の改善・健全化に対するインパクトは大きい。
大手ITベンダーはレガシーマイグレーション需要などで売り上げの基礎を固めつつ、自治体BPRに伴う新規のIT需要を取り込むことで売り上げを伸ばす基本戦略を練る。
■大規模自治体が草刈場に 高まる総合窓口システムの需要 経営品質を高めるためにはリストラやIT投資などまとまった資金が必要になることから「ある程度の体力がある自治体に限られる」(ITベンダー関係者)という声も聞かれる。政令指定都市や中核市クラス、または市町村合併で規模のメリットを獲得した自治体がBPRをより積極的に進めると予測され、一方で「体力のない自治体の投資には限界がある」(同)と自治体の二極化が進むと見る。
大手ITベンダーが直販部隊を動員して営業をかけるのはBRPを行える体力がある自治体が中心になり、そうではない小規模自治体は広域連携によるITの共同利用などが商談のメインになる構図も考えられる。
BPRの切り口として注目されているのが「総合窓口システム」である。これまでバラバラだった証明書の発行や申請受付の窓口を一本化して住民サービスを向上させるフロントエンドの仕組みだが、これをきっかけとして住民の視点に立った改革を推進するというものだ。
まずはフロントエンドを改革し、これをトリガーにして徐々にバックエンドにまで商談を波及させていくことで売り上げ増を目指す。
総合窓口システムは窓口とバックエンドの事務処理をオンラインで結ぶため、窓口と事務処理部分が物理的に離れていても対応できる。市町村合併を経て広域化した自治体などでは事務処理を本庁に集中させ、窓口は支所や出張所など複数に置いて住民サービスを向上させる動きも出ている。
日立製作所の甲斐隆嗣・公共システム事業部全国公共システム本部政府自治体関連プロジェクト推進部部長は、「今後、数年のスパンで総合窓口システムの商談が活発化する」と手応えを感じており、NECの青木・事業推進部長は、「今年度中には第1号ユーザーの誕生を目指す」と、モデル事例をつくることで営業に拍車をかける。
窓口業務の効率化やサービスの向上は住民の目につきやすく、住民の反応や満足度を気にする「首長からの反応のもいい」(ITベンダー幹部)という。
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| 需要の波 | | 自治体のIT投資は国の施策などによって波がある。介護保険制度の導入によって2000年までにシステム需要の大きな波があり、04-05年は市町村合併に伴うシステム再編の波がきた。市町村合併の波は03-04年の“谷間”に比べて10%ほど市場が拡大したと分析するITベンダーもある。次のBPR関連の波は07年の団塊世代の一斉退職で本格化し、波の大きさは、「市町村合併並み」と目論む声も聞かれるなど期待は大きい。 | | | |
だが、窓口業務はあくまでもBPRの“象徴”であり、氷山の一角でしかない。ここで実績を上げたベンダーが内部事務の本格的な改革に向けた商談を加速できるものと見られる。狙いはあくまでも自治体運営全般にわたるBPRである。
富士通の西原・営業統括部長は、「体力ある自治体はベンダーの予想を超えるダイナミックな動きをする可能性もあり、これに合わせる形でITベンダーのビジネスモデルやソリューション体系も大きく変わらなければならない」と気を引き締める。
市町村合併による再編が一段落し、自治体運営を効率化するBPRはまだ始まったばかりだ。有効な手を打たなければ自治体のIT投資需要は縮小してしまう。BPR需要をどこまで新規のIT投資に結びつけられるかが、ベンダーの自治体分野での業績を大きく左右するものとみられる。
【チャンスの芽】・ポスト合併のIT投資の波をつかめ
・自治体運営の全般を見据えたBPR提案がカギ
・自治体の投資体力の格差が開く。二極化を見極めろ