SAPジャパン(ロバート・エンスリン社長)は、ERP(統合基幹業務システム)のパートナー3社と共同で、中堅中小企業(SMB)向けに価格を通常の3分の1程度にした格安ERP(セット商品)を期間限定でキャンペーン販売する。同社のERPは国内でも認知度が高く、大手企業を中心に広範に普及した。だが、「価格が高い」という印象が強く、SMBがSAP製品の導入に二の足を踏んでいると判断。これを機に、「高価格」のイメージの払拭を狙う。格安ERPは、簡易導入のノウハウとサポートツール込みで「300万円」などと総額を明示。年末までに100社への導入を目指す。同社は来年前半までに、実績に応じディスカウント額を増やせるというワールドワイドの新パートナー制度を日本にも導入する予定。今回のキャンペーンで、新パートナーを獲得する布石を打つ。
将来的なパートナー獲得の布石か?
今回のキャンペーンで提供するセット商品は、機能を限定し、初期コストを抑えた「SAPファースト・ステップ・キット」。9月1日に発売し年内限定で販売する。年商50億円以下の中小企業向けには、中小企業向けERP「SAP Business One(B-one)」をベースに日立情報システムズが提供する「300万円」のセットと、NECネクサソリューションズが提供する「500万円」の2種類がある。機能は財務会計や販売、購買、CRM(顧客情報管理)に限定し、短期間でERPを導入するためのソフトウェアライセンスや導入コンサルティング、PCサーバーを含んだ基本導入キット、サポートツールを含めた価格設定になっている。
年商50-1000億円の中堅企業向けには、財務会計と管理会計機能を搭載した中堅企業向け「mySAP ERP」をベースに、導入を自動化するSAPの設定ツール「SAP Best Practices」に、パートナーのノウハウを加えたセットを「1980万円」で提供する。販売は、アイ・ピー・エスと日立情報システムズが行う。
中小企業向けセット商品は、日立情報システムズとNECネクサソリューションズの2社がSAPジャパンに提案し、親会社の独SAPが了承して実現した。「中堅中小企業では、価格への意識が高く、ERPを設定する段階で、SAPのERPが俎上にも上がらない場合が少なくない」(神戸利文・営業統括本部地域営業本部バイスプレジデント)ことから、格安ERPの提供に踏み切った。
3製品はいずれも、価格を通常価格の3分1程度に抑えることで、高価格を理由に二の足を踏んでいた企業を発掘できると見ている。「セット商品は、それだけでも粗利益が出る」(同)が、SAPのERP自体が拡張性に優れていることから、初期投資を抑え部分導入した上で、将来的にコンプライアンスや内部統制への対応で、生産管理などの機能を追加できるという。パートナーは、ひとたび顧客に納入すれば、長期的に企業のシステムを担うことができるという仕組みだ。
SAPジャパンでは、第一段階として年内限定のキャンペーンにするが、効果次第で同様のセット商品を継続して拡販することを検討している。ただ、同社から他のパートナーに対し、今回のセット商品を提供することはせず、「パートナー主導で、同様のセット商品を開発し、提案できる環境を生み出す」(神戸バイスプレジデント)という。
すでに、複数のSIerから日立情報システムズなどと同じパック商品を取り扱いたいという打診が寄せられている。
受注実績に応じて成功報酬も
SAPジャパンは、国内で約1300社にERPなどを導入した。ただ、大半は年商1000億円以上の大企業で、SMBの開拓が課題だった。昨年度(2005年12月期)のSMBでの受注は約200社。「今年度(06年12月期)は、この2倍の400社に導入を目指す」(エンスリン社長)と明言している。
しかし、「年間2000社には導入したい。(SMBを開拓することで)2010年までに顧客を8000社にする」(同)と、本音の目標値と実績がかい離し、苦戦している様子だ。
これまでは、大規模案件を積極的に開拓していた同社だが、「今後は、数を追求する」(神戸バイスプレジデント)ことを目標に掲げている。その上で、再販権のある1次店「サービス・パートナー」だけでなく、権利のない2次店「チャネル・パートナー」の数を増やす必要がある。今回のキャンペーンで「価格が高い」「導入や初期設定が難しい」「システム構築が煩雑」などのイメージを払拭し、ユーザー企業にプラスイメージを植え付ければ、広範にSIerを獲得できると分析している。
同社は来年前半までに、世界展開する新パートナー制度を日本に適用する計画。同制度は、従来の契約方式を抜本的に見直した「バリューポイント」という成功報酬制度を採用する。「受注実績に応じて、パートナー側でユーザー企業に導入する際のディスカウント価格の幅を広げられる」ため、パートナーの決定権が増し、低価格なERPを提供できるようになるとみている。
今回のキャンペーンは、新制度発足を前に、早い段階でマイナスイメージを取り除き、新規パートナー開拓の布石を打ったと見られる。SMBのERP市場は、コンプライアンス重視の傾向が強まる中で、国産ERPベンダーが新規参入するなど競争が激化している。「大企業向けだけでなく、SMBのERP市場でもナンバーワンを獲得する」(エンスリン社長)という目標に向け、直販中心の欧米と異なり、日本市場を意識したチャネル重視へ、本格的に舵を切ったことを印象づける意図がありそうだ。