XML市場拡大の兆しが鮮明になってきた。XML対応のデータベースが増えるなどプラットフォームが整備されつつあることがプラスに働いている。これまでXML規格化の動きは盛んだったが、実ビジネスへの展開は遅れていた。今後は蓄積したXMLデータを活用できるミドルウェアやアプリケーション市場の活性化が進む見通しだ。データベースベンダーと有力ISVの連携強化も始まっている。(安藤章司●取材/文)
統一書式でファイル互換が可能
■非定型データは管理不十分 XMLは1990年代後半から規格化が進んできたが、XML対応のデータベースやミドルウェア、アプリケーションが十分に揃わなかったために普及が遅れていた経緯がある。個々人のパソコンなどで作成したワープロ文書や任意の表計算ファイルなどの非定型データをXML形式に変換・保存したとしても、これを統合的に管理できるデータベースや分析ツールがなければ導入するメリットは薄い。企業で扱う情報全体の約8割は非定型データが占めているが、十分な管理ができないまま現在に至っている。
しかしここにきて大手データベースベンダーがXMLに本格的に対応したデータベースを投入。ミドルウェアやアプリケーションベンダーもXMLデータベースへの対応を相次いで表明しており、XMLが本格的に普及する環境が整ってきた。
従来からデータベースの主役の座を占めてきたリレーショナルデータベースは、項目別に整理して記録する方式であるため非定型情報の管理は苦手だ。XMLデータベースはこうした非定型情報でも効率的な管理が可能で、データの呼び出しや検索速度が格段に速い。ユーザー企業はXML情報をデータベース化して統合的に管理できるようになる。
日本IBMや日本オラクルなどデータベースベンダー大手は、既存のリレーショナルデータベースにXMLデータベース機能を追加したハイブリット型のデータベースを相次いで製品化。ジャストシステムはXMLデータベース機能に対応してフロントエンドシステムの役割を果たすミドルウェア「xfy(エクスファイ)」の拡販に力を入れる。
■業種別の標準化が進む ターゲットになる非定型情報はワープロ文書や表計算ファイルだけではない。財務会計や電子カルテ、電子政府の申告書式、地理情報システム、電子商取引などさまざまな分野での適用が見込まれる。個々の業種業態でXMLの標準化が進んでおり、世界で数千の標準があるといわれる。XMLの基本的な規格はほぼ固まっており、こうした業種別の標準規格はXMLの技術的な標準規格のうえで動作する“応用規格”と位置づけられている。
たとえば財務会計の応用規格であるXBRL(エキステンシブル・ビジネス・レポーティング・ランゲージ)は財務に関連するデータを一元的に管理。決算短信や有価証券報告書など各種ビジネスレポートの作成の効率化を目指したものだ。ジャストシステムのxfyは「今年度07年3月期)末までにXBRLにも対応する」(田上一巳・執行役員xfyエンタープライズ事業本部長)予定である。
従来は表計算ソフトやワープロソフトで財務諸表を作成するか、ERPやBIなどパッケージソフトを活用するケースが多かった。だが個々のソフトの専用フォーマットへの依存度が高く汎用的な再利用には適さない。XBRL(広義のXML)で書式を統一すれば、特定アプリケーションに依存することなく再利用できる。
これと同じ動きが流通業のEDI(電子データ交換)、製造業の生産管理システムの部品表、医療の電子カルテなどさまざまな業種で起こっている。
■ISVなどとの連携欠かせず  |
| XML(eXtensible Markup Language) | | 企業で扱う情報のおよそ8割はワープロ文書や任意の表計算ファイルなど非定型情報が占める。互換性に乏しい独自のファイル形式が多く、他のアプリケーションでの再利用が難しい欠点があった。XMLはこうしたバラバラのファイル形式に互換性を持たせ、再利用しやすくする国際標準規格として広く受け入れられている。 | | | |
日本IBMは今年9月に従来のリレーショナルデータベースとXMLデータベースを統合したハイブリット型データベース「DB2 9」の出荷を始めた。データベース単体での販売は限られているため、拡販にはDB2 9のXMLデータベース機能に対応したミドルウェアやアプリケーションを開発するISVやシステム構築を手がけるSIerの協力が欠かせない。
現在、DB2シリーズの対応製品を開発しているISVは国内に約200社、このうち40社余りがXMLデータベース機能への対応を表明。「今後1年間で少なくとも20-30社の対応製品を揃える」(渡邉宗行・ソフトウェア事業ブランド事業推進インフォメーション・マネジメント事業部事業部長)とISVへの働きかけを強める。
東芝ソリューションも世界最速級のXML専用データベース「TX1」を投入。「ISVやSIerなどとのパートナーシップを強化する」(齋藤稔・プラットフォームソリューション事業部商品企画部参事)と拡販体制の強化に取り組む。
主要なERPやCRM、ワープロ・表計算などオフィスソフトはXML形式で出力、保存できる機能を増やしている。互換性に乏しい独自のファイル形式ではユーザーの支持を得られないと判断したからだ。裏を返せばユーザーの囲い込みが難しくなる可能性もある。どのアプリケーションからも似たようなXMLデータが吐き出され、これをxfyなどのミドルウェアを使って自由に読み出し、加工する。ISVにとって新たなビジネスチャンスになると同時に他社にリプレースされるピンチともなり得る。
情報システムの基盤であるデータベース層がXMLに対応したことで、上位のミドルウェアやアプリケーション層のXML対応が急ピッチで進むのは間違いない。従来のリレーショナルデータベース市場とは異なる新しい市場の創出が期待される。
【チャンスの芽】・企業で扱う情報全体の約8割の非定型データは管理不十分。
・製造、流通、金融などさまざまな業種でXMLの標準化が進む。
・迅速なXML対応を進めるISV、SIerが勢力を伸ばす可能性あり。