不況に強い産業構造をつくれ
米サブプライムローン問題に端を発する一連の金融不安は、国内情報サービス産業に深刻な悪影響を与える。大手SIerの多くは金融全般でIT投資案件の先送りや凍結が相次ぐことを懸念する。証券業界では、サブプライムローン問題のあおりですでにIT投資の鈍化が見られ、そこへ降って湧いた米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻が追い討ちをかけた。金融・証券業界のIT投資がより鈍化する可能性も否定できなくなってきている。
証券業向けの売上構成比が比較的大きい野村総合研究所(NRI)の第1四半期(2008年4─6月期)では、証券業向けの売上高が前年同期比で3・9%減になるなど部分的ではあるが数字にも現れ始めている。〝震源地〟により近い証券業の顧客が多いSIerは、「それだけ影響が出るのが早い」(大手SIer幹部)と見る。
金融業向けのシステム開発では、メガバンクの基幹業務システムの統合案件が今年で一段落。ただでさえ需要の減退が見込まれていただけに、リーマン破綻はまさに〝泣きっ面に蜂〟。北米の景気減退が進めば、自動車や電気電子など国内輸出産業にも影響が及ぶ。折からの原材料高でコスト削減意識が高まっている製造業だけに、輸出産業の失速はIT投資の縮小にもつながりかねない。
経済産業省・特定サービス産業動態統計による情報サービス業の売上高は、08年7月まで7か月連続で前年同月を上回るなど、これまで比較的堅調に推移してきた。金融や製造などでIT投資が減退すれば、「来年度あたりからマイナス成長もあり得る」(NTTデータの重木昭信副社長)と警戒心を強める。
では、どうしたらいいのか。
仮にIT投資が減退した場合、元請けの大手SIerは外注費を削らざるを得ず、2次請け以降のSIerは売り上げが減る。このようなケースで元請けは、ただ一律に削るのではなく、外注先の強みを残すよう努めるべきだ。
例えば、外注先がミドルウェアに強ければその部分の発注は減らさない。特定の業務ノウハウがあればそれを絶やさないよう支援する。さらに、強みを伸ばそうとするビジネスパートナーに対して機会均等、透明度の高い評価制度を適用すべきである。
NRIはかねてから専門性の高い業務ノウハウや情報技術、高度なセキュリティレベルを持つ中核的なビジネスパートナー十数社を「eパートナー」と位置づけ、プロジェクトの運営面で緊密に協調してきた。eパートナー以外は長期的に取引する基本契約会社、さらに案件ごとに契約する個別契約会社などと分類。専門性や技術レベルなどeパートナーになるための制度を整備することで競争の透明度を高める。パートナーから見れば、伸ばすべき技量や投資計画を立てやすいメリットがあり、公平性も高まる。
不況時だからこそ、中小のSIerは得意分野へ重点的に投資し、強みを伸ばす。大手SIerにはこうした中小SIerの意欲をより引き出す仕組みづくりの構築が求められる。日本の情報サービス産業を空洞化させないためにも、業界が一丸となって経済環境の変化に強い構造改革を推進する時期にきている。(安藤章司●取材/文)