衛生材料メーカーの白十字(天田忠正社長)は、オンデマンド型ERP(統合基幹業務システム)サービス「FineCrew(ファインクルー)NX」を採用した。導入時のソフトウェアライセンス費用が不要で、月額定額で使える。SIerの日本オフィス・システム(NOS、尾嵩会長)が開発した。従来のERPパッケージソフトは、初期導入のライセンス費用が高いことと、バージョンアップに伴うメーカーサポート期間の終了による更新費用がかかることが課題になっていた。FineCrew NXはこうした課題を解決するサービス型のモデルとして白十字から高く評価された。(安藤章司●取材/文)
初期ライセンスなく、月額定額で利用
サポート期間の制約受けず

NOSが打ち出したFineCrew NXは、導入時のソフトウェアライセンスが不要で、かつバージョンアップ費用は月額定額の使用料の中に含む。従来のパッケージソフトで課題になっていた「サポート期間」の制約を受けず、定額料金で使い続けられるサービス型のモデルである。
白十字では、会計や給与などで一部パッケージソフトを使ってきたが、サポート切れやバージョンアップにより、おおよそ4-5年ごとに買い換え費用が発生していた。ソフトの保守料金を毎月支払っているにもかかわらず、バージョンアップ時にはライセンスを買い直さなければならない。通常のパッケージソフトでは、ちょっとした手直しや小規模のカスタマイズをするにも別途費用がかかるが、FineCrew NXの場合は月額料金の範囲内で対応する。「トータルで見ればNOSに頼んだほうが安い」(白十字の國米正裕・取締役執行役員社長室長)と判断した。
直近の白十字の年商は約430億円。SAPやOracleといったグローバル規模のERPの採用も検討したが、ライセンス価格が高く、自社の業務をERPパッケージ=世界のプラクティスに合わせなければならないことがネックになった。創業1896年、社歴は110年余り。これまで積み重ねてきた業務フローもある。そうそう簡単に既存のプラクティスに合わせられないところもあり、「導入失敗のリスクも否定できない」(白十字の鈴木敏行・執行役員経理部長)と頭を悩ませた。
従来型ERPにない斬新な提案
経営トップからはERPを導入して経営の可視化をより進めよと指示が下るものの、現場業務と既存ERPとでは異なる部分が少なからずある。このときNOSから提案があった。FineCrew NXは2005年10月に販売を始めた比較的新しい商材であり、白十字が求める生産管理の中核システム部分はまだ未整備だった。ならば、「白十字に合ったシステムを当社が開発しましょう。ただし、開発したモジュールを同業他社にも使っていただきます」(NOS営業担当の稲坂信昭さん)と持ちかけた。他社とモジュールを共有すれば、似たようなモジュールを個別に開発するよりコストを抑えられる。
白十字の要求に応える、自社に合ったシステムを開発してくれて、かつ従来から課題になっていた「バージョンアップ」や「保守サービス切れ」という概念がない、月額定額によるオンデマンド・サービス型。開発したモジュールを他社に提供するという条件も、見方を変えれば、「他社で開発したモジュールをうちで使うこともできる」(白十字の杉本博武・情報システム部開発一課長)と、ワンリソース・マルチユースのFineCrew NXの考え方を受け入れることにした。
手始めに製造業の中核システムである生産管理から着手。これまでもシステム化していたが、一部で手作業で表計算ソフトを操作しなければならないなど自動化が完全でない箇所が残っていた。原価計算に至っては確度が十分でなく、信頼性に欠ける部分もあった。今回のFineCrew NXのプロジェクトでは、なかでも要となる原価計算の自動化を目標として07年7月にスタート。1年後の08年8月に本稼働にこぎ着けた。業務フローはできあがっていたが、システム的には「ほぼゼロから開発した」(NOSの堀川智弘・FineCrew NX推進室プロジェクトマネージャー)。
横展開でユーザーにメリット
システム開発では、顧客のイメージするものを100%具現化するのは難しい。長期のプロジェクトになればなおさらで、「十分にヒアリングをしたつもりでも、言葉の定義に行き違いが起こった」(SEを担当したNOSの井上幸子さん)と振り返る。白十字側で仕様が固め切れていない箇所も見つかった。従来のシステム構築案件では、本稼働後の手直しは基本的に別途料金が発生する。この点、FineCrew NXは多少の手直しは月額定額の料金内で微調整が可能。継続的に完成度を高める手法も採り入れた。
顧客にメリットの多いオンデマンド型ERPだが、NOSにとってはこれからがビジネス本番だ。今回、白十字で開発したモジュールをベースに、医療品メーカーや製造形態の共通部分が多い食品メーカーへ横展開する必要がある。白十字は原価計算部分の総開発費として6000万円弱を投じている。他社はこれを割安で利用できる一方、白十字も「他社のプロジェクトで開発したモジュールを割安で使いたい」(白十字の鈴木執行役員)と期待する。NOSは1社でも多く横展開することで、白十字にFineCrew NXユーザーとしてのメリットをより多く還元することが求められる。
NOSでは、09年7月以降に生産管理システム全体の独自開発に着手する方針を打ち出しており、製造業の顧客開拓に力を入れる。月額定額によるワンリソース・マルチユースのオンデマンド型ERPの真の価値を発揮するためにも、一層の横展開を急ぐ方針である。
事例のポイント
●サービス型ERPモデルとカスタマイズの組み合わせで満足度を高める
●バージョンアップやサポート期間をなくし、ユーザーの負担を軽減
●開発したモジュールは横展開に努め、複数ユーザーでメリットを享受