景気後退の影響を受けて2009年のITマーケットも成長鈍化が見込まれている。IT市場の分析に強い調査会社は市場をどうみているのか。不況の煽りで中堅・中小企業(SMB)のIT投資に対する意識がどう変化しているのか気になるところだ。SMB向け市場調査を得意とするノークリサーチと、さまざまなIT製品・サービスの分析に強いIDC Japan。両社の有力アナリストの見解をもとに、成長する分野と伸びない分野を探った。
有力アナリストはこうみる!パソコンのリプレースは低調に
| ノークリサーチの見解 |
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SMBはプラス成長 セキュリティは堅調 |
年商500億円以下のSMB(中堅・中小企業)のIT市場分析に強いノークリサーチ(伊嶋謙二社長)は、SMBに特化して国内ITマーケットの成長率を独自予測している。今年は市場全体で昨年度比横ばい、SMBに限っていえば同0.7~1.7%増と試算。景気後退の影響から市場全体、SMBともに昨年に比べ成長は鈍るが、そのなかでもSMBはプラス成長を維持するとしている。

SMBで伸びる分野と位置づけているのは、セキュリティやコンプライアンス関連製品。伊嶋社長はその理由について、「セキュリティ対策や法令順守は、景気が良くても悪くても、また企業規模問わず絶対に必要で、それに伴うIT投資も底堅い」と説明する。また、SMBはセキュリティやコンプライアンス関連で「大企業に比べて、自社運用よりもサービスとして導入する傾向が強い」と分析する。具体的なサービスとして、岩上由高シニアアナリストは、「スパム(迷惑メール)チェックやデータのバックアップはサービスの利用が進むだろう」とみている。このほか、岩上シニアアナリストは今年のSMBに流行る技術的分野として「運用コスト削減のためのクライアントPCの仮想化」「情報有効活用のためのエンタープライズサーチ」「キャリアに依存しないモバイルアプリ」などをあげている。

一方、今年のSMBマーケットで受け入れられない商品・サービスは何か。岩上シニアアナリストは、「サービス化する価値がないサービス」とユニークな見解を示す。「SaaS型サービスの台頭やクラウドコンピューティングという概念が出てきたことで、ITのサービス化が注目を集めている。サービス化へのシフトが進むのは確かだと思うが、一方でサービス化しても価値のないアプリケーションもある。流れに身を任せて、付加価値が生み出せないアプリをサービス化してもユーザー企業はメリットを感じない」と断じる。
また、伊嶋社長はSMB市場は伸びるとみながらも、こんな観点を口にする。「日本のSMBには、最低限必要な情報システムが意外と導入済だ。SMBのIT化に向けての最大の問題は、既存IT資産を活用できていない点にある」。今あるIT資産を有効活用するだけでも生産性向上、業務効率化に寄与するという見方だ。となると、ユーザー企業がそれに気づけば、新規IT投資はSMBでも減少するとも考えられる。
ノークリサーチは、調査・分析作業にあたりITベンダーへの聞き取り調査だけでなく、数千社のSMBにアンケート調査・取材を行っている。ユーザー企業の声も加味して分析するだけに、SMBの実態には詳しい。
| IDC Japanの見解 |
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IT市場は前年比1.7%減と予測 SMBは落ち込み少ない |
IDC Japan(竹内正人社長)は、2009年のIT市場規模について12兆3788億円(前年比1.7%減)と予測しており、なかでも大企業の落ち込みが激しいという見解を示している。SMBについては、「市場全体よりも落ち込む率が低い」(和田英穂・リサーチ第3ユニットグループディレクター)と分析している。

市場全体が下がるのは、パソコンを中心にハードウェアに対して企業が投資を抑えるため。同社が実施した「緊急ユーザー調査」で顕著に現れたという。「金融危機の影響で、リプレースする必要のない製品に関しては、できるだけ資金投入を行わないケースが増えるのは間違いない。加えて、台湾メーカーなどによる低価格のUMPC(ミニノートPC)が登場したことで、企業側のパソコンに対する意識の変化が生じている。クライアント端末に関しては、できるだけお金をかけないようになるだろう」とみている。
今後はIT投資抑制がますます高まってくるわけだが、一方で比較的導入が進むことに期待をかけるのは、ノークリサーチと同様にIDC Japanでも「コンプライアンス関連」としている。というのも、「不況であろうと法規制に従わなければならないから」という。なかでも、「大手の上場企業と取引関係のあるSMBは導入せざるを得ないだろう」と予測する。それとは別に、「SaaSなどサービス型モデルについては、利用促進が進むのではないか」とみる。パッケージソフトを購入するよりも初期投資額が抑えられるためで、「SMBでは導入しなければならないアプリケーションを月額料金制のサービスで補うことになる」との見解を示している。こうした要素があり、大企業よりもSMBのほうがITに投資する割合が高いとしている。
09年の成長率については減少するとみているが、「2010年には市場規模が持ち直すだろう」と予測する。具体的には、10年のIT市場規模が前年比1.7%増。この成長率についても、「SMBのほうが成長率は高まる」としている。そのため、「ITベンダーは、今年のうちに景気回復に向けた取り組みを進めるべき」と指摘。ただ、ユーザー企業によるIT投資に関する意識はシビアになっている可能性が高い。そういった点では、「“安かろう悪かろう”の製品やシステム、サービスを提供するのではなく、きちんとコストを割り出し、できるだけリーズナブルな価格に設定することが重要になる」との考えを示す。ベンダーにとって、今年は部材調達やビジネスモデルの改善に知恵を絞り出す年になるということだ。
