アバター(自分の分身として画面上に登場するキャラクター)を介して、仮想現実世界に入り、会話をしたり、本を読んだりする――。「次世代インターネット」と称される3Dインターネット(3次元仮想空間)は米国のベンダー、セカンドライフのサービス「Second Life」で一時期注目された。この3次元仮想空間を独自に構築するサーバーソフトウェアを企業向けに提供する動きがある。セカンドライフ社が米IBMと共同開発した仮想空間構築プラットフォーム「Second Life Grid」を提供開始したほか、国内企業の3Di社(小池聡社長)は3D関連のOSS(オープンソースソフトウェア)「OpenSim」技術を活用した「3Di OpenSim Enterprise」をリリースした。米ガートナーでは2012年、米国企業の70%が独自の仮想空間を構築すると予測している。今後、企業が3Dインターネットを活用する動きが加速しそうだ。
教育、催事などで利用進むか
従来型との融合で身近に 3Dは「リッチメディア」
「次世代インターネット」といわれる3Dインターネットは、実は今に始まったものではないと小池社長は説明する。CADソフトなどでのモデリングに使われたり、ハリウッド映画では3次元コンピュータグラフィックスが多用されてきた。ウェブ上で3次元の物体を表示する際にも3次元物体の情報を記述するファイルフォーマット「VRML」が提唱されるなど、さまざまな試みがミックスされて発展してきたものだという。
これまでの3次元は、CAD、3DCGのような専門ソフトが必要とされ、一般の人からすると、“世界が違う”存在だった。ところが、今では「Internet Explorer」など一般的に使われているウェブブラウザで3次元仮想空間を操作することを可能にした製品が世に出始めている。時代を追っていくごとにネットワーク回線が太くなり、ハイスペックなPCが安価で手に入るようになってきた。圧縮技術の進歩やソフトウェアでグラフィック機能をカバーすることができるようになったことから、3D仮想空間は身近なものとして浸透しつつある。従来のインターネットはテキストから画像、画像から写真、写真から動画というように「リッチメディア化」が進んできた。3Dインターネットは、このような「リッチメディア」の一つとして、従来の2Dインターネットとの「融合」が図られている。
これにより、一般的なブラウザを使って、従来の2次元インターネットでは実現できなかったアバターを介したインタラクティブ(双方向)な「体験型」メディア、かつユーザーに情報伝達する際の高い「到達度」「表現力」の二つを持ち合わせる訴求力の高いメディアとして今後の活用が期待される。

PDFや動画のように「いつの間にか使っている」状況
NTTは、NGN利用促進の一手法として3Dインターネットに注目している。昨年、3Di社に出資・業務提携した。3Dインターネットの代表格であるセカンドライフ社の3次元仮想空間「Second Life」はコンシューマ寄りのサービスとしてのイメージが強かった。だが、セカンドライフ社でもIBMと共同開発した企業向け用途を狙ったサーバーソフトウェア「Second Life Grid」をリリースした。これを機に、BtoCや企業内利用での需要が加速していきそうだ。
仮想空間をビジネス向けに活用するということは、コスト削減に直結する。「展示会」を例にとってみると、これまでは主催者が会場を借り、出展者がブースを開設するなど、大きなコスト負担になっていた。IBMは昨年、セカンドライフ社と共同開発した「Second Life Grid」を使って仮想空間関連のカンファレンス「Virtual Worlds Conference」を開催した。リアルでの開催に比べて、コストを5分の1に抑えることができたという。
3Di社は3D仮想空間構築のためのOSS標準化団体「OpenSim」コミュニティに参加し、同社の技術者がコアデベロッパーとして参加している。同コミュニティにはIBMなど大手企業も参加しているが、目指すところは複数の3D仮想空間が一つにつながる世界だ。
この技術を活用して3Di社が開発したのが、昨年10月に発表した企業向けサーバーソフトウェア「3Di OpenSim Standard」だ。これはOSSの商用ソフトウェアとして世界初の製品となった。今年4月には、「3Di OpenSim Enterprise」をリリースした。
利用用途としては、教育、不動産関係のショールームやECサイト、イベント・セミナーなどを見込んでいる。「書店なども利用すると効果があるのではないかと思っている。従来は検索して記憶を元にインターネットで書籍を探していたものを、3Dインターネットではそのまま現実の本屋を模して空間を構築し、アバターを操作し、ぶらりと本屋を散策し、山積みの本から気になるものを手に取ることも、カスタマイズして好みの本を並べるコーナーを作ることもできる」(小池社長)と構想を説明する。
3Di社のパートナーとして、3次元仮想空間関連のビジネスを展開する「マグスル」や、ホスティングサービスなどを手がける「Hoster-JP」、またシステム開発企業の「テック・インデックス」などが製品を扱っている。まだSIerの販社は少ないが、「そのうち、大手のSIerが販社として名乗をあげてくれるだろう」(小池社長)とみている。
調査会社の米ガートナーは、2012年までに米国企業の70%が3次元仮想空間を構築するとみている。これに関連して小池社長は、「数値で示されるというより、そのうち企業は肩肘張らずに、PDFや動画のように気づいたときには利用している状況になっているのではないか」と予測している。