「アソビきれない毎日を。」をテーマにゲーム関連事業などを展開するバンダイナムコエンターテインメント。インターネット経由でサービスを提供するネットワークコンテンツや、家庭用ゲーム機ソフト、アミューズメント施設向けのゲーム機のほか、パチンコパチスロ向けコンテンツなども提供している。ネットワークコンテンツの海外展開にあたっては、レイテンシ(遅延時間)の課題を解消することが求められた。
【今回の事例内容】
<導入企業>バンダイナムコエンターテインメント「アソビきれない毎日を。」が企業理念。ゲーム事業を中心として、エンターテインメントという幅広い領域で事業を展開している
<決断した人>國藤真伯
NE事業部マーケティングDV
システム部システム1課マネージャー
ネットワークコンテンツの海外展開においてAWSの採用を決断。その有効性を認め、国内でもAWSの採用を推進
<課題>北米を中心とするモバイルコンテンツの海外展開をするには、日本国内に設置したオンプレミスのサーバーでは、レイテンシ(遅延)が発生するという問題があった
<対策>現地リージョンのクラウドサービスを採用
<効果>レイテンシの課題を解消しただけでなく、環境構築のスピードや拡張性といったクラウドの有効性を認識。日本国内の案件においてもクラウドの採用を進めた
<今回の事例から学ぶポイント>負荷が読めないときにクラウドを採用し、安定したらオンプレミスに移行するというハイブリッドな活用で、システム運用のノウハウを社内に残すことができる
レイテンシの問題が発生
バンダイナムコエンターテインメントが、北米を中心とするネットワークコンテンツ(※)の海外展開を検討したのは2010年頃。ネットワークコンテンツのサーバーは日本国内にあったことから、米国で確認したところ、リクエストしてからレスポンスがあるまで、2秒から3秒の時間がかかることがわかった。このままではゲームユーザーがストレスを感じてしまい、利用してもらえない。そのため、現地にサーバー環境を構築するといった改善策が求められた。
検討の結果、パブリッククラウドの「Amazon Web Services(AWS)」が浮上した。調査したところ、「既存環境をAWS上に構築することの有効性、移行イメージがつかめた」と、バンダイナムコエンターテインメントの國藤真伯・NE事業部マーケティングDVシステム部システム1課マネージャーは当時を振り返る。他のパブリッククラウドも検討したが、既存環境との親和性、規模や拠点が決め手となった。

アイレット
齋藤将平
代表取締役 AWSを採用するとしても、今後多くの運用を想定するうえで協働してくれるMSPパートナーも必要だった。AWSを扱うことができる日本国内のITベンダーを探すなかで浮上してきたのが、アイレットだ。「AWSに関しては、国内ではアイレットが先行していた。導入設計から運用・保守までを提供するアイレットの“フルマネージドサービス”も魅力的だった」と國藤マネージャーは語る。一方、アイレットの齋藤将平・代表取締役は「2010年頃はAWSに取り組んでいたものの、ノウハウをためている段階だった。その意味では、一緒に勉強させていただき、連携しながらプロジェクトを進めていった」と語るように、アイレットにとってもAWSに注力するきっかけとなった。
バンダイナムコエンターテインメントは、オンプレミスでサーバー環境を運営していることもあって、ネットワークコンテンツやキャンペーンサイトなどの運用を担う技術者を社内で抱えている。ネットワークコンテンツでは、アクセスが急増するといったシビアな要求に応えるなど、バンダイナムコエンターテインメントの技術者は、柔軟な対応力を誇る。それゆえに、パートナーに対する要求も高い。「当社の技術者が、アイレットの技術者と会話を進めていくなかで、とても波長が合った。それも大きな決め手となった」と國藤マネージャーは評価している。AWSを採用したことで、北米に展開したモバイルコンテンツは、順調に運用を開始した。
ゲームのスピード感にマッチ
北米の実績からバンダイナムコエンターテインメントは、AWSが2011年に東京リージョンのデータセンターを構築したこともあって、国内でもAWSの採用を進めた。ネットワークコンテンツなどのオンライン系は、サービススタート時のアクセス数などが読みにくいことから、状況に応じてサーバー環境などを変更できるパブリッククラウドが向いている。
導入スピードの速さも、ゲーム事業のスピード感にマッチした。「AWSは、すぐにサーバー環境などを構築できるので、次々と新しいゲームのタイトルを導入できるようになった。扱うタイトル数が、明らかに増えた」と國藤マネージャーは効果を実感している。プロダクション・コンテンツ作成部門の急な要求にも、AWSの使い勝手のよい、進化の著しいサービス群によって対応可能になった。
クラウドの効果を実感する一方で、オンプレミスの環境も運用している。「当社はオンプレミスの意義は変わらないと思います。社内にノウハウを残すため、クラウド時代といっても、最適なハイブリッド運用や技術者育成は必要だと考えている。クラウドも『どういう仕組み』かを理解したうえで導入したい」と國藤マネージャーは技術力の蓄積を重視し、ネットワークエンジニアの成長に期待している。
ビッグデータの活用も視野
今後の展開について、國藤マネージャーはAWSについて次のように考えている。
「クラウドの柔軟なインフラはさまざまな情報を扱いやすい。ゲームごとの傾向、集計管理など大量データをクラウド上で管理できる。セキュリティ面も手厚くなり、分析基盤としてクラウドを活用しつつ、あらゆるビッグデータ連携の可能性とともにクラウドを活用し、新たなビジネスへの展開、貢献をしていきたい」。
ネットワークコンテンツの海外展開をきっかけに始めたクラウドの活用が、バンダイナムコエンターテインメントのビジネスを支える基盤へと飛躍しようとしている。(畔上文昭)