婦人服の月額制レンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」で一躍有名になったノイエジークは、テコラスのスタートアップ企業向け“ITマネージドサービス”を活用して「airCloset」を軌道に乗せた。スタイリストの専門家がユーザーに似合う服を選んでくれる斬新なコンセプトが注目を集め、サービス開始直後から入会申込みが殺到。ITインフラには拡張性にすぐれたAmazon Web Services(AWS)を採用していたが受付開始直後にダウンしてしまった。
【今回の事例内容】
<導入企業>ノイエジーク婦人服を月額6800円(税別)でレンタルするサービス「airCloset」を手がける。「部屋のクローゼットの容量には限りがあるし、仕事や育児でなかなかゆっくり服を選ぶ時間もない──」。こうした女性の悩みを解決する
<決断した人>天沼聰 CEO(左)辻亮佑 執行役員CTO
「スタイリストが選ぶ服、期限なし、何度でも交換OK、たくさんの服に出会ってください」をコンセプトに「airCloset」を立ち上げ、一躍ヒット商材に育てた
<課題>airClosetのサービス開始直後にユーザーが殺到し、システムがダウン。にっちもさっちもいかなくなった
<対策>テコラスのスタートアップ支援プログラムと、クラウドを活用したITマネジメントサービスの「ECO」シリーズを組み合わせて解決
<効果>ITインフラで活用していたAWSの性能をフルに引き出せるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>クラウドであっても性能を引き出すにはノウハウが必要。設計が悪いと急激な負荷増でダウンすることもある。
「ノウハウが足りなかった」
airClosetは、発表当初からファッション系のニュースやブログで大きく紹介され、注目度は抜群に高かった。それだけに今年2月3日のサービス開始時には会員登録を求めるユーザーが殺到。ITリソースの拡張性にすぐれたパブリッククラウドサービスのAWSをシステム基盤に採用していたが、押し寄せるシステム負荷をさばききれず、あえなくシステムはダウン。サービスを一時中断せざるを得なくなった。ノイエジークの天沼聰CEOは、「正直、ITインフラに関するノウハウが足りなかった」と認める。
airClosetのサービスは、ネット通販のようにインターネットを活用したサービスである。もちろん実際にユーザー先に届けるのは現物の婦人服ではあるものの、レンタルの手続きから、ユーザーの服の好みのフィードバック、プロのスタイリストが選んだ服とのマッチングなど、システムの支援があって初めて成り立つ。プログラムの開発は外部ベンダーを活用しているが、プログラムの設計はもちろん、プロジェクトの進行は、基本的にノイエジーク側のプロジェクトメンバーが担う方式を採っている。
ノイエジークは昨年7月に設立したばかりのベンチャー企業であり、短期間のうちにairClosetのコンセプトづくりからシステムの設計、プロジェクトの進行を担うには荷が重く、そのしわ寄せが「サービス開始直後のシステムダウンにつながった」(ノイエジークの辻亮佑・執行役員CTO)と振り返る。
にっちもさっちもいかなくなったところに1本の電話が入った。「当社ならなんとかできるかもしれません」。こう電話口で話したのはITマネージドサービスを手がけるテコラスの府川旭・マーケティング部ディレクターだった。テコラスの存在は、旧社名のデータホテル時代から「名前はよく知っていた」(天沼CEO)ので、素直に足下の苦境を打ち明けることにした。

あなたのもう一つのクローゼット。「airCloset」の公式サイト。わずか10日で立て直す
今年2月の時点で、すでに知名度が高かったairClosetの公式サイトがダウンしている様子をテコラスの担当者が見つけ、その場でノイエジークに連絡を入れた。普通ならシステムダウンの“修羅場”が容易に想像できるので、“触らぬ神に祟りなし”と様子見を考えがちなのかもしれないが、テコラスは自ら進んで“火中の栗を拾う”行為に出た。
ノイエジークのようなスタートアップ向け企業の支援プログラムをテコラスでは用意しており、なおかつクラウド構築・運用マネージドサービス「ECO」シリーズを揃えている。このサービスメニューのなかにAWS活用も含まれており、「スタートアップ支援プログラムとECOシリーズのサービスを組み合わせて提供する」(テコラスの府川ディレクター)ことにした。契約もそこそこ、システムの復旧は即日着手し、チャットやネット通話を駆使して両社は積極的にコミュニケーションをとり始める。
そもそも無尽蔵にサーバーを増やせるAWSで、なぜサーバーが落ちるのか。いくら仮想サーバーといえども実際にサーバーを起動させるには数分の時間がかかり、アプリケーションソフトのインストールを行う時間も必要となる。そのわずかな時間のうちにも負荷が増大し続け、サーバーが次々と落ちてしまっていたのだ。「AWSはすぐれたサービスだが、AWSなりの制限事項や、性能を十分に引き出すためのノウハウがある」(テコラスの柴田岳一マーケティングコミュニケーショングループリーダー)。
テコラスは、システム全体の設計を踏まえてITインフラの負荷を算出。そのうえでAWSの活用の仕方を抜本的に見直した。ノイエジークの技術陣とのコミュニケーションはチャットやネット通話がメインで、「電子メールですら煩わしい」(辻CTO)と感じるほどに“スピード重視”で臨み、結果的にわずか10日後の2月14日にairClosetのサービスを再スタートさせることに成功した。(安藤章司)