「法改正の内容によっては、廃業することも考えている」。エンジニアの派遣を中心とするSES(System Engineering Service)事業を手がける企業の幹部が、労働者派遣法の改正に気をもんでいる。人材派遣には「特定労働者派遣」と「一般労働者派遣」の二つの形態があるが、労働者派遣法改正ではその区別をなくそうとしている。特定労働者派遣は届出制だが、一般労働者派遣は許可制。法改正後は許可制に統一される。派遣会社によっては、その要件を満たせない可能性がある。(畔上文昭)
6月19日、労働者派遣法の改正案が衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。法改正の目的は、派遣労働者の雇用の安定や保護、そして労働者派遣事業の健全化にある。IT業界でも、多重下請けの問題は常に指摘されてきている。多重下請けでは、悪質な仲介業者が手数料の名目で賃金を搾取するケースがあり、派遣労働者に適正な対価が支払われないなどの問題につながるからだ。
とくに労働者派遣法の施行令で定められた26業務(ソフトウェア開発や機械設計など)では、特定労働者派遣の扱いとなり、労働者派遣事業を始めるにあたって特別な制約はなく、届け出るだけでいい。そのため、ITエンジニアの派遣会社は、手軽に始められるというメリットがある。
一方、26業務以外は一般労働者派遣となり、派遣事業を始めるにあたって、資産や現預金の額、事務所の広さなどに要件が定められている。法改正では派遣企業の健全性が目的の一つであることから、許可制に統一される。特定労働者派遣事業を営む派遣会社が存続できるかどうかは、その許可の基準次第というわけだ。「一般労働者派遣の基準を満たすのも難しい。派遣会社の淘汰か合併が進むのではないか」と、小規模派遣会社の経営者はため息交じりで言う。
改正法案が成立した場合、2015年9月1日が施行日となる。以降、労働者派遣事業を始めるには、要件を満たして、許可を受けなければならない。ただし、現在、特定労働者派遣事業を営んでいる派遣会社には、3年間(18年8月31日まで)の経過措置が用意される。また、派遣労働者の人数が少ない派遣会社に対しては、資産要件などを軽減することも検討されている。
新たな許可要件については、法案の成立を待たなければならない。どのような要件になろうとも、小規模派遣会社には厳しい選択を迫られることになりそうだ。