住宅産業向けクラウドサービスにより、理想の家づくりを支援するK-engine。新築向けのサービスからスタートしたK-engineは、事業を拡大するにあたってリフォーム市場への参入を計画する。新築向けのサービスではスクラッチでシステムを開発したが、リフォーム向けでは約半年という短期間でシステム構築を完了させることを目標に、パッケージシステムの採用を検討。EC(電子商取引)パッケージの採用が決まりかけていたが、ギリギリのところで変更することになる。
【今回の事例内容】
<導入企業>K-engine住宅建築のK(建築、経営、工事、購買)を情報通信技術でフルカバーするエンジンとして、新築向けやリフォーム向けのクラウドサービスを展開している
<決断した人>橋本健太郎
技術本部インフラ/WEB開発部部長
リフォーム市場への参入を主導。システムを構築するにあたっても中心的な役割を担う
<課題>リフォームの事業環境は日進月歩。要件が変わりやすいため、半年でシステム構築の完了を目指した
<対策>将来の仕様変更にも柔軟に対応できる「hybris」を選択
<効果>約半年でシステム構築を終え、サービスをスタートさせた
<今回の事例から学ぶポイント>企業独自のサービスを短期間で構築するには、柔軟性の高いシステム基盤の採用がカギとなる
リフォームの機会損失解消へ
K-engineが提供する新築向けのサービスは、CAD図面があれば、住宅1棟分の原価積算をわずか5分で作成する。同サービスのユーザーである住宅の施工業者は、見積もりに時間をかけることなく、すばやい顧客対応が可能になる。クラウドサービスなので、特別な機器を購入する必要もない。K-engineは2011年8月9日設立という若い会社だが、多くの住宅施工業者がユーザーとなり、順調に業績を伸ばしてきている。
新築向けのサービスを軌道に乗せたK-engineが、次に目をつけたのがリフォーム市場だった。「リフォーム市場は伸びていないが、エコカーやスマートフォンのような成長市場に変えたいと考えた」と、橋本健太郎・技術本部インフラ/WEB開発部部長は語る。リフォーム市場が伸びていない理由として、「適正価格がわからない」「完成形がイメージしにくい」などが挙げられる。また、見積もりに何日もかかることがあり、機会損失の要因になっていた。「リフォーム提案ではライブ感が大事で、初期段階でお施主様のイメージを高め、共感を得ることが大切」と橋本部長は語る。見積もりのリアルタイム化を必要としたのは、そのためだ。
この状況をクラウドサービスによって変えるというのが、K-engineがリフォーム市場に参入した理由である。橋本部長は、新築向けのサービスのシステム構築にかかわってきたことから、リフォーム向けサービスにおいても、ビジネスプランの作成やシステム構築などを担当した。
約半年でシステム構築が完了
リフォーム向けサービスのシステムを構築するにあたって、橋本部長はまったくの新規システムとして構築することを考えていた。「新築向けのシステムには多くの予算を投資し、すでに稼働している。そこに影響を与えないようにしたかった」からである。
リフォーム向けのシステムを短期間で構築したいという思惑もあった。「目指しているサービスの内容が日進月歩なので、シンプルで最低限の機能でクイックスタートするのが理想」(橋本部長)と考えたからだ。
低予算でのシステム構築も目標の一つだった。新築向けのシステムはスクラッチで開発したが、リフォーム向けではパッケージシステムの採用を含め、柔軟にサービスの実現方法を模索することにした。「商品を選んで、見積もる・購入するというプロセスは、グローバルでみても共通項が多く、基本的機能を有しているECパッケージをベースに構築することに決めていた」と、橋本部長は当時を振り返る。
ところが、約1か月という検討期間の終盤でSAPジャパンのオムニチャネルソリューション「hybris(ハイブリス)」に出会う。機能説明などを聞いたところ、橋本部長は「他システムとの疎結合ができ、カスタマイズがしやすい」ことを評価。多様なリフォームのニーズに応えるには、その柔軟性が魅力的だった。また、リフォームでは多彩な商品を取り扱うことから、hybrisでコンテンツ管理(PCM)やプロダクト情報管理(PIM)の機能が充実していることもポイントとなる。加えて、SAPジャパンが紹介してくれたSIerが、社内の他システムを手がけたエクサだったことも、hybrisの採用を後押しした。「当社で実績があり、ECに強いというイメージがある」と橋本部長はエクサを高く評価している。
AR機能も実装
リフォーム向けのシステムは約半年で構築し、「K-engineリフォームアクセル」というサービス名でウェブ見積もりサービスを開始した。
リフォームアクセルでは、消費者の依頼に対し、工事事業者がその場で見積もりを提示したり、AR(Augmented Reality、拡張現実)機能でリフォーム後の映像を提供したりといったことができる。マルチデバイスに対応したクラウドサービスであるため、工事事業者で端末を新たに購入する必要がない。リフォーム関連商品数は500万超で、メーカーに中立な提案ができるうえ、価格を工事事業者ごとに設定できるという点でも高い評価を得ている。
短期間でシステム構築が完了し、サービスをスタートさせたK-engine。「今後の新たなニーズにも柔軟に対応できる」と、橋本部長は自信を深めている。(畔上文昭)