中小企業のIT化促進は長年のテーマになっている。課題の一つが導入コストだ。コストをかけずにIT化を実現する方法を模索するべく、経済産業省では、「中小企業等省エネルギー型クラウド利用実証支援事業補助金」の制度を昨年度から開始。ITベンダーとして6社が選定されている。果たして、中小企業にIT化を促すことにつながるのだろうか。(取材・文/佐相彰彦)
クラウドを導入しやすい環境へ

経済産業省
柳田大介
課長補佐 中小企業等省エネルギー型クラウド利用実証支援事業補助金は、中小企業に対してクラウドの利用を促進することで、電力需給の対策を図ることを目的につくられたもので、同時に事業継続性の向上とデータセンター(DC)の国際競争力強化を図ることにも取り組む事業になっている。
企業内のデータ量は増加する一方で、事業継続のためにはデータをバックアップする必要がある。その保管先としてDCを利用するニーズは旺盛だが、実際にはコストの問題があってDCにデータを預ける動きが浸透しているわけではない。ところが、DCの消費電力量は日本全体の約1%を超えていて、電力需給のひっ迫が危惧されているほどだ。さらに、日本のDCはコストの面などで世界的にみて競争力が乏しいといわれている。DCの高コスト体質を解消し、それぞれのDCがクラウドサービスを提供することによって、中小企業がITを使ってビジネスを成長させる環境をつくる、という図式が、この支援事業の最大の狙いだ。
経済産業省の柳田大介・商務情報政策局情報処理振興課課長補佐は、「日本では、クラウドサービスの利用が5%にも達していない。提供側であるDCが省エネを含めた強固なシステムを構築して、中小企業が導入しやすいクラウドサービスを提供することに期待したい」との考えを示す。
初年度は35億円の補助金
中小企業を中心にクラウドの利用を促進することでひっ迫する電力需給への対策を施すことを目的に、中小企業等省エネルギー型クラウド利用実証支援事業補助金の制度が開始されたわけだが、具体的には、(1)中小企業などが自前で保有する情報システムを、省エネ・事業継続性の向上に有効なクラウド型DCへ移転するために支援する「データセンターを利用したクラウド化支援」、(2)既存の中小DCをクラウド化して有効に活用するために必要な、高度なクラウド基盤ソフトウェアの導入実証を行う「クラウド基盤ソフトウェア導入実証」、(3)中小企業などが選別できるようDCの国際的省エネ度評価指標の導入を進めて、サーバーなど機器の導入と評価に取り組む「省エネ型データセンター構築実証」──の三つだ。
期間は昨年度から3年間にわたって実施する計画(「データセンターを利用したクラウド化支援」は昨年度で終了)になっている。補助金は、昨年度が35億円、今年度が5億6000万円に設定。柳田課長補佐は、「DCと中小企業の国際競争力を高めていく」と力を込める。
「Hatohol」で複数のクラウド環境を統合

ミラクル・リナックス
青山雄一
本部長 中小企業等省エネルギー型クラウド利用実証支援事業補助金の補助事業者として採択された1社に、OSS関連事業を手がけるミラクル・リナックスがある。同社は、OSS運用統合ソフトウェア「Hatohol」をベースに、複数のクラウド環境を統合的に集約・可視化して効率的に運用管理するというコンセプトのもと、相互接続性を向上させるインターフェース「HAPI(Hatohol Arm Plugin Interface)」の開発に着手している。
青山雄一・マーケティング本部プロダクトマーケティング部本部長は、「ユーザー企業のなかで、すべてのシステムをクラウド化するケースは少なく、多くは必要に応じて適した環境を選択して複数のクラウドサービスを併用している。ハイブリッド環境への関心が高まっている一方、ユーザー企業のシステム担当者にとって、さまざまなシステムの構築やサービスの利用は運用が複雑になる可能性がある。クラウドの利用を促進するには、運用の負担を減らすことが重要で、そのためにHAPIの開発に着手することになった」としている。
Hatoholは、オープンソースコミュニティで公開されており、コミュニティに参加する開発者を広く募って機能を高めている。現段階では、「Zabbix」や「Nagios」などのオープンソース統合監視ソフトウェアとの連携を意識したユーザーインターフェースとなっているが、今後はクラウドの統合を意識した設計を予定している。また、ほかの運用統合ソフトウェアとの連携も視野に入れているという。青山本部長は、「コミュニティの参加者を対象に、勉強会やワークショップなどで、形のあるものにしていく。3か月に1回の割合でアップデートしていく」との方針を示す。加えて、「他社製の運用統合ソフトウェアとの連携を実現すれば、SIerにとって、クラウドの統合を実現することを含めてHatoholが売りやすい製品になるのではないか」と捉えている。同社では、さまざまな運用ツールを統合して、オンプレミスやプライベートクラウド、パブリッククラウドなどの環境を問わずにシームレスに運用・管理を一元化する「ハブ」のソフトウェアにすることを目指す。