オービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)は、トップメーカーとして君臨する基幹系業務ソフトウェアの市場に加え、制度改正などにより発生する、既存の業務システムではカバーしきれない業務を支援するためのクラウドサービスを提供し、新たな事業の柱を打ち立てようとしている。従来の基幹業務ソフトがカバーしてきた範囲の業務効率化だけでなく、その周辺、極端にいえば企業全体の生産性向上を支援するための製品・サービス群を揃え、巨大な潜在市場を新たに開拓しようとしているのだ。こうした姿勢は、主力である業務ソフト「奉行シリーズ」の進化にも反映させている。時に「イノベーションの停滞」を指摘する声が業界内からも聞かれる業務ソフト市場において、メーカーはビジネスのかたちをどう変革していくべきなのか。OBCの取り組みは、その一つのモデルを示そうとしている。(本多和幸)
基幹システムは「宝の山」

和田成史
社長 OBCは、現在、全国で順次開催しているユーザー向けイベント「奉行フォーラム」で、10月29日にリリース予定の奉行シリーズ次期バージョン「奉行10」の概要とコンセプトのアピールに力を注いでいる。奉行フォーラムの奉行10セッション担当者は、「従来の奉行シリーズをさらに機能向上させるという視点はもちろんあるが、基幹業務システムを改善しただけでは、もはやお客様に劇的な生産性の向上をもたらすのは難しいのも事実。基幹系の業務システムには新しいコンセプトが必要になっている」としたうえで、これを実現したのが奉行10であると訴える。
奉行10が提示した基幹業務ソフトの新しいコンセプトとは何か。最大のポイントは、基幹業務システム内に抱える情報を、ユーザー企業全体の生産性向上のために、全社で共有・活用する仕組みを充実させようとしていることだ。これをOBCは、「従来は人が起点となって業務システムに実行を指示していたが、関連業務の担当者の生産性向上に寄与したに過ぎないともいえる。本来、基幹業務システムには、宝の山ともいえる価値の高い情報が蓄積されているわけで、奉行10では、システムが起点となってこの情報を企業全体で共有できるようにして、企業業務全般の生産性を飛躍的に向上させることを目指した」と説明している。
具体的な新機能をいくつかピックアップしてみると、理解しやすくなる。まず、社内SNSの「奉行Linkitサービス」では、もはや日本社会全体に浸透したコンシューマ向けSNSアプリのような使い勝手はもちろんのこと、奉行10からファイルを送信できる機能も備えた。また「Office連携サービス」も備え、奉行10のデータをExcelに直接展開して、加工や集計、分析などを自動化できるようにするなど、基幹業務システムの情報を、社内のさまざまな人員が時間も手間もかけずにやりとりできるようにした機能が目立つ。
新たなポートフォリオを提示
さらに注目すべきは、OBCの新事業である「業務サービス」との連携機能だ。OBCの業務サービスは、基幹業務システムでカバーしきれない業務を支援するクラウドサービスで、和田社長は、「“もう一つの奉行シリーズ”と呼べる規模の新たな柱に育てていきたい」と期待を寄せている。法・制度改正や事業環境の変化により発生する新たな企業業務をサポートするというコンセプトだ。Microsoft Azureを活用した「マイナンバー収集・保管サービス」や、今年12月に施行されるストレスチェック制度対応のオールインワンサービス「ストレスチェックサービス」、日本で導入した会計ソフトの勘定奉行で海外現地法人の会計データも詳細に確認できるようにする「海外法人コネクトサービス」、タレントマネジメントシステムのベンダーであるサイダスとの協業による「人材育成サービス」などをすでにリリースしている。
いずれも、財務会計、給与計算、人事管理といった分野の業務と深く関連はするものの、基幹業務の範囲を超えた新しい業務に対応したサービスといえる。従来は、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスなどがそうしたニーズに応えてきたわけだが、中小企業が利用するにはコストが高すぎる。OBCは、「基幹系システムとのデータのやりとりを標準化できるという業務ソフトパッケージメーカーならではの強みを生かし、SIerなどのBPOと比較するとずっと低コストで、企業内の業務を幅広くサポートできるサービス群を提供し、事業領域をどんどん広げていく」(大原泉取締役)方針だ。つまり、SIerなどが大手・中堅企業向けにBPOサービスで提供しているような機能をクラウドサービスとしてパッケージ化し、中小企業でも導入可能なコストで販売することで、新たな市場を創出しようとしているのだ。和田社長は、「とくにマイナンバー収集・保管サービスは絶好調で、当社の業務サービスのコンセプトや価値は何なのかをご理解いただくのに大いに役立っている」と手応えを語る。
OBCは、これらの業務サービスを、他社業務ソフトのユーザーに独立したサービスとして導入してもらうことも歓迎している。しかし、奉行10の発表に伴ってOBCが示したのは、企業全体の生産性を上げるために基幹システムの情報を全社で活用する仕組みづくりを進め、基幹システムがアプリケーションとしてカバーできない業務は業務サービスで網羅し、奉行10がこれとシームレスに連携するという新しいポートフォリオだ。業務サービスをドアノックツールとして、非奉行ユーザーを顧客基盤に取り込み、基幹業務ソフトも奉行シリーズへの乗り換えを促していくことは、当然視野に入れているだろう。
この新たなポートフォリオは、「パートナーにも、新たな顧客にアプローチしやすく、顧客ごとの売上規模も大きくできるということで喜んでもらっている」(和田社長)という。しかし、その言葉を疑うわけではないが、新しいコンセプトをパートナーやユーザーに理解してもらい、市場をつくっていくのは時間がかかるのが常だ。OBCの強さを支えていた販売パートナーが、「奉行10+業務サービス」の価値をどれだけ顧客に説得力をもって提案できるかに、OBCの挑戦の成否がかかっている。