日立製作所(東原敏昭社長)は3月4日、企業のIT部門や販売パートナーが対象のセミナー「JP1フォーラム」を東京都千代田区のベルサール神田で開催した。今回のテーマは「IT運用にイノベーションを!」。統合システム運用管理「JP1」が今年1月に約3年ぶりとなるメジャーバージョンアップを果たし、Version 11となった。セミナーのテーマに掲げた“イノベーション”をもたらすのは、JP1 Version 11ということになるが、具体的にはどのような機能で実現するのだろうか。(取材・文/畔上文昭)
IT部門は黒子ではない

日本情報システム・ユーザー協会
金 修
専務理事 冒頭の基調講演では、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の金修・専務理事が登壇。「IT関係者を取り巻く環境変化とその備え ─ますます高まる運用の重要性とその役割─」と題し、企業におけるIT部門の重要性について講演した。
世の中は常に変化している。強い企業はその変化に順応してきた。そんなことは誰もがわかっているはずだが、変化に気づき、行動に移すのは簡単ではない。「『まだ先だよ』というのは、『そんなことになってほしくない』の意味。変化に気づいているのに、気づかないふりをしているだけ」と、金専務理事は指摘する。体調の変化に気づいているのに病院へ行かないのと似ているという。
ビジネス環境が変われば、ITのあり方も大きく変わってくる。そこでは、単に最新のITを導入するというのではなく、変化の激しいビジネス環境で有効なITとは何かを追求しなければならない。金専務理事は「『しょせんITはツール』という言い方はやめてほしい。ITは『Business Weapon』であるべき」と、ITはビジネスの武器になるということを強調した。
ビジネスにおけるITの貢献度では、「攻めのIT」と「守りのIT」を使って表現することが多い。金専務理事は、“攻め”を「Businessの新しい施策展開(バリュー・アップ)」、“守り”を「現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)」と定義し、その傾向について紹介した。金専務理事によると、IT投資において、65%が守りのIT投資で、35%が攻めのIT投資というのが、平均的な比率だという。ところが、「大企業では、この比率が逆転する傾向がみられる。攻めのIT投資の必要性に気づき始めている。とくに、増収増益を続けるような営業利益が高い企業ほど、攻めのIT投資の比率が高い」という。
ただし、攻めのIT投資をするには、守りのITがしっかりできている必要があるため、JUASではIT運用も重要なテーマとして力を入れているという。「IT予算の多くをマーケティング部門が確保すると発表した調査会社や、IT部門が不要になると記事にしたメディアがあったが、そうはなっていない。IT部門は依然として、企業にとって重要な部門である。それはIT運用を担っているからだ。保守と運用はなくなることがない」と金専務理事は強調した。IT運用をしっかりこなすことで、IT部門は新たなビジネスモデルの創出やビジネスイノベーションを担うことが可能になる。規模の大きな企業ほど、その傾向がみられるという。最後に金専務理事は「IT部門は黒子ではなく、表舞台へ出てほしい」と会場の参加者に呼びかけた。
IT運用の完全自動化

日立製作所
情報・通信システム社
加藤恵理
サービスイノベーション
統括本部
IT基盤ソリューション本部
JP1エバンジェリスト 次に主催者講演として、日立製作所 情報・通信システム社の加藤恵理・サービスイノベーション統括本部IT基盤ソリューション本部JP1エバンジェリストが登壇。テーマは「JP1が導くIT運用のイノベーション ~運用管理はどこへ向かっていくのか~」と題し、JP1 Version 11のコンセプトや最新機能、将来像などについて講演した。
冒頭で加藤エバンジェリストは、IT部門の役割が「ITを通じた経営への助言/提案」「ITを通じた新たなビジネス創造」へと変わってきているとして、それにはビジネス環境の変化に迅速・柔軟に対応できるITシステムと運用が不可欠であると説明した。そこでJP1 Version 11では、「スピード経営時代のIT統合管理『JP1 as a Service』」を掲げた。ポイントは三つ。「サービスとしてのJP1」「クラウドを支えるJP1」「IT運用に革新をもたらすJP1」である。
「ビジネスの変化に適用するべく、JP1の一部の製品をサービスとしてSaaS型で提供できるようにした。また、クラウドの活用はもはや一般的になったが、JP1では、それを高度に、よりビジネスに直結するかたちで活用できるように支援する。そして、IT運用の革新では、自動化・自律化で徹底的に効率化を進める」と、加藤エバンジェリストはJP1 Version 11のコンセプトを紹介した。なかでも、「IT環境が複雑化し、IT運用のスペシャリストの確保も難しくなっていく」として、IT運用の自動化・自律化の重要性を強調した。
また、JP1の将来像として、「今までは人の経験や知見をもとに対応していたが、今後はビッグデータやAI(人工知能)を活用するなど、リアルデータにもとづくIT運用を実現し、最終的には完全な自動化を目指したい」(加藤エバンジェリスト)とした。
最後に加藤エバンジェリストは、「皆様の知見とアイデアをいただきたい。それを採り入れながら、皆様一人ひとりのためにJP1を成長させていきたい」と語り、講演を締めくくった。
今回のJP1フォーラムでは、講演のほかに九つのセッション、そして展示ブースを用意。パートナー企業がJP1の最新機能に対応したソリューションを紹介するなど、“IT運用のイノベーション”を感じさせる内容に、多くの参加者が熱心に耳を傾けていた。