SNSで商品が話題となり、ショッピングサイトへのアクセスが急増する。サイトの運営者にとってアクセス急増は大歓迎だが、サイト側の処理が追いつかないと、クレームへと発展してしまう。会員サイトで発生しがちなトラブルの一例である。オージス総研(西岡信也社長)は、こうしたショッピングサイトや会員サイトにおける課題解消に最適なクラウドサービスとして、統合認証プラットフォームThemiStruct Identity Platformの提供を開始した。複数の会員サイトでのシングルサインオンやSNSとの連携など、クラウドならではの機能を盛り込んでいる。(取材・文/畔上文昭)
クラウドサービスの可用性
ThemiStruct Identity Platformは、ショッピングサイトや会員サイトといったB2Cサイト向け統合認証プラットフォームである。複数のサイト間でのユーザー情報連携も可能で、シングルサインオン環境と会員ID管理機能を提供する。
大阪ガスグループのオージス総研は、大阪ガスの会員専用サイト「マイ大阪ガス」で認証プラットフォームを構築し、運営している。その実績を生かし、ThemiStruct Identity Platformをサービス化した。「これまで当社が提供してきた『ThemiStruct』シリーズは、主に社内のユーザーがターゲット。B2C向け製品は今回が初めてとなる」と、八幡孝・テミストラクトソリューション部副部長は語る。
ThemiStruct Identity Platformは、クラウドサービスである。B2Cサイトでは、キャンペーを実施したり、SNSで話題になったりするとアクセスが急増するため、事前の対応策が重要になる。認証関連も例外ではない。サイトの人気が急上昇すると、サーバーのレスポンスが低下し、会員登録がまともにできないという事態に陥りかねない。ただし、どこまでアクセス数が増えるかの予想は難しく、ピークを想定したインフラを用意するのも現実的ではない。
そこでThemiStruct Identity Platformでは、システム基盤としてアマゾンウェブサービスのパブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」を採用し、可用性を確保している。「B2Cサイトではサービスを止められないし、突発的なアクセス増が発生することがある。さらに購買関連が絡むとなれば、ユーザー認証をさばききれず、最悪の場合は停止するといった事態を招いてしまうかもしれない。AWSであれば自動でスケールするため、可用性を確保できる」と、八幡副部長はAWSを採用した背景を語る。

オージス総研 サービス事業本部テミストラクトソリューション部の八幡 孝・副部長(写真右)、
同プロフェッショナルサービス第一チームの千野修平氏AWSを活用し新規開発
社内向けのThemiStructシリーズは、オープンソースをベースとしているが、ThemiStruct Identity PlatformではAWSの基盤やコンポーネントを活用し、新規でサービスを構築した。活用している主なサービスは、セキュリティ層で「AWS WAF」、認証API層で「Amazon API Gateway」「AWS Lambda」、データストア層で「Amazon Aurora」である。AWSのサービスを各層できれいに分けて活用している。
テミストラクトソリューション部プロフェッショナルサービス第一チームの千野修平氏によると、「大阪ガスでの経験を生かし、今回はB2Cに必要とされる機能に絞り込んだ。機能よりも、性能と容易性に注力している」という。例えば、API連携機能。ThemiStruct Identity Platformは世界的に標準化された技術規格に準拠するAPIをサポートしているため、既設サイトへの組み込みが容易にできる。「作業開始から約1時間で導入が可能」(八幡副部長)とのことである。
ソーシャルログイン連携
ThemiStruct Identity Platformは、FacebookやGoogleのIDが活用できる「ソーシャルログイン連携」に対応している。FacebookやGoogleのIDを保有していれば、ThemiStruct Identity Platformを採用しているサイトの会員登録を省略できるというわけである。そのため、会員登録が面倒というユーザーの心理的なハードルを下げることにつながる。「大阪ガスで同様の機能を提供したところ、ユーザーの利用率が上がった」と、千野氏は実績を語る。
また、八幡副部長は、「認証ソリューションは守りの投資から攻めの投資へと変えていかなければならない。収益獲得のためのユーザー認証であるべきだ。ソーシャルログイン連携のほかにも、攻めの投資につなげるべく、新しいニーズに応えていきたい」とし、ユーザー企業やパートナー企業とともに、ThemiStruct Identity Platformを“攻め認証ソリューション”へと成長させていく考えだ。