中国・成都に本社を置くソフトウェア会社、成都ウィナーソフトの日本法人であるウィンリッヂ(榎本秀貴社長)は、今年3月に福岡市内に「福岡事業所」を開設。同時に「九州教育センター」を立ち上げ、IT技術者を目指す中国などアジアの大学生を対象に人材育成を開始した。日本国内やアジアのITベンダーに対し、若手のIT人材を供給することを目的に、プロジェクト技法やJava/C言語などの研修を行う。高度IT技術者の不足が予想されるなか、IT人材供給の一助となるか注目される。(取材・文/谷畑 良胤)
研修は13週、460時間以上
九州教育センターでは、九州圏内の有力パートナーから講師を招聘するなど、プロジェクト・マネジメント(PM)やITスキルを有する高度IT人材を養成。元日本IBMのシステムエンジニア(SE)で同センター長の清水幸太郎・新規事業戦略推進室長は、「今後、需要の高いアジアや日本向けに、IT技術リーダーや開発プロジェクトを先導できるPM候補生を育成したい」と、高い目標を掲げる。

右からウィンリッヂの榎本秀貴社長と清水幸太郎センター長
3月1日からスタートした第一期では、成都ウィナーソフトでインターンシップをしている学生を中心に、大連大学などの理工系学部の在学生14人を集めた。現在、一期生は、週35時間以上/13週、計461時間におよぶ過酷な研修を受けている。学生は同社が用意した福岡市内の施設で寮生活をしながら、研修に打ち込んでいる。
同センターでの研修内容は、技術を実務で学ぶ「IT研修」として、外部講師によるJava/C言語のプログラミング、清水センター長が講師のプロジェクト技法やIT最新動向などが102時間。IT研修で使うパソコンやプログラミングに必要なJavaのソフトなどは、すべて同社が提供している。
このほか、日本のITベンダーに就職することを想定し、日本人とのコミュニケーション能力を高めることを目的に専門の講師に委託し、ビジネス日本語や電話対応などロールプレイング方式で「日本語上級」の研修を359時間も行っている。最終的に日本語は「日本語能力試験」1級を目指す。

博多駅から徒歩5分ほどに位置する「九州教育センター」で、
ロールプレイング方式で日本語を学ぶ中国の学生
取材した4月は、外部の日本語講師が電話対応や会社に来た訪問者への受付対応などをロールプレイング方式で習得する研修が行われていた。実際のソフト会社でみられるソフト開発の見積書などのやり取りを、ペアを組み、訪問者と応対者に分かれ練習する姿がみられた。研修のスタートからまだ1か月ながら流暢な日本語が語られていた。
中国の学生は日本で働きたい
中国では、省単位でIT技術者の育成を計画的に行う。例えば、「JavaとC♯の技術者を何百人養成する」といった具合。だが、清水センター長によれば「プログラミングなどの技術力をもつ学生は増えるものの、上流工程でPMとして働ける人材が育っているとはいえない」と現状を分析する。
ここ数年、日中関係が冷え込み中国経済も停滞、加えて、労働賃金の上昇を受け、日本のITベンダーからの「オフショア開発」や「データエントリー」案件は減少の一途だ。中国の大学で育ったSE候補の学生の多くは、下流工程の人材として採用され、賃金も高くない。そのため、「中国の学生は、日本のITベンダーで働きたいとの希望が多い」(清水センター長)という。
一方、こうした状況下で、日本からのオフショア開発を獲得したい中国のソフト会社は、案件縮小や下請けに甘んじている状況に危機感を抱いている。日本より安価な開発費と日本のITベンダーが求める品質やプロジェクト管理体制などを整備する必要があるが、中国の大学ではそれらを可能にする人材が育成できていない。ウィンリッヂが同センターを立ち上げた理由は、中国のITベンダーで働き日本のITベンダーとソフト開発をするケースや、日本のITベンダーに働きたい学生を高度なIT人材に育て、日本のIT技術者不足を補う。
情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書」によれば、ITベンダーの2割強はIT人材を「大幅に不足」、6割強が「やや不足」と回答している。9割弱のITベンダーで人材不足を感じていることになる。榎本社長は、「われわれが長い経験で得たノウハウを中国やアジアの若い学生にフィードバックしたい。優秀なIT人材を短期間で育てることで、今後、人材供給力を上げていきたい」と話す。
日本国内のIT人材は、需要に対し供給が追い付かなくなることが目にみえている。同社のような地道な取り組みが広がることを期待したい。同社によれば、福岡は首都圏に比べて住宅家賃が3割近く安く、物価も安い。また、中国やアジアに近く、立地条件が整っている。将来的にはアジアの学生へ対象を拡大するが、当面は中国の学生を育成する。第二期生は、今秋に募集し研修を開始する。