富士通と米オラクル、日本オラクルは、クラウドビジネスで戦略的な提携を行うと発表した。両社とも、エンタープライズIT市場にその名をとどろかせるビッグネームでありながら、クラウドビジネスでは出遅れ、プレゼンスを高めるのに苦労しているという印象が拭えない。しかし、とくにこの1~2年は、日本市場でクラウドビジネスを拡大するための商材を着々と整備してきたことも確か。「遅れてきた大物」同士が手を握り、ついに反転攻勢なるか――。(本多和幸)
Oracle DBクラウド版がK5オプションに
両社グループが今回発表した具体的な提携の内容は、大きく三つのポイントに集約される。まず、日本オラクルの懸案となっていた国内データセンター(DC)の設置について、ようやく明確な計画を公表し、富士通の国内DCを利用することを明らかにした。国内DCの設置後に急成長した「Microsoft Azure」の例をみても明らかなように、とくに日本では、国内DCからサービスを提供できる体制を整えているか否かが、クラウドサービスの市場への訴求力を大きく左右する要因になっている。
オラクルも、ここ数年でクラウドの商材そのものは着実にラインアップを広げてきた。M&Aによって手に入れた幅広いSaaS群のほか、データベース・ソフトをはじめとするミドルウェアレイヤの技術力を注ぎ込んだ「Oracle Cloud Platform」を、フロント系のアプリケーションだけでなく基幹システムにも対応できるPaaSとして積極的にアピールしてきた。しかし現在のところ、国内のDCからサービスを提供しているのはSaaSの一部のみ。同社のPaaSが基幹系への対応に強みをもつということであれば、重要データを国外に持ち出したくないというユーザーのニーズが大きいことを考えても、なおさら国内DCの整備は急務だったといえよう。2016年度第4四半期(2017年1月~3月期)より、Oracle Cloud Platformや各種SaaSを含むオラクルのクラウドサービス群「Oracle Cloud」を、ついに国内データセンターから提供できるようになる。

そして二つめのポイントが、富士通とオラクルのクラウドビジネスそのものでの連携だ。富士通も昨年、同社が蓄積してきたSIのノウハウ・技術を余すところなく詰め込んだIaaS/PaaS「MetaArc K5(K5)」を、クラウドビジネスの切り札として発表した。このK5のオプションとして、Oracle Cloud Platformに含まれるDBサービスである「Oracle Database Cloud Service」をK5のポータルから利用できるようになる。サポートサービスまで、富士通がワンストップで提供する方針だ。また、ユーザーがK5ではなくOracle Cloud PlatformをPaaSとして選択したいという場合も、富士通が窓口となり、クラウド上でのSI込みでOracle Cloud Platformを再販するかたちになる。
最後の三つめとしては、富士通がオラクルのSaaSの大規模ユーザーになるとともに、その再販も始める。クラウド人事アプリケーションの「Oracle HCM Cloud」を富士通グループで採用し、国内の富士通DCでセキュアに人事データを管理しつつ、まずはタレントマネジメント領域から活用を始める。こうした社内実践で得た知見やノウハウをベースに、外販ビジネスでの成長も目指すという。
オラクルのPaaSも富士通がSI込みで提供
両社の協業を発表した記者会見には、富士通の山本正已会長が出席したほか、米オラクルのラリー・エリソン会長兼CTOも米国からのサテライト中継で参加し、トップ同士の決断による協業であることを強調した。山本会長が、「富士通とオラクルは30年以上協業の歴史を積み重ねてきた。ハードウェアはサン・マイクロシステムズ時代から、DBはメインフレームの時代までその歴史は遡る。年に一度は私もラリーと会っているが、昨年2月に会ったときに、何か一緒にやろうと話したことが今回の戦略的提携につながった。一社でお客様のニーズに応えるのは難しくなっており、今回のオラクルとの協業には非常に期待しているし、両社で新しいエコシステムをつくっていくチャレンジだと思っている」と協業の経緯を説明。エリソン会長もこれに応え、「富士通は非常に古くからの重要なパートナーの一社。今回の提携により、HCM Cloudはユーザーかつエキスパートとして外販してもらえるし、DBレイヤ、PaaSでも協業する。これは同時に、オラクルのIaaSを富士通に提供してもらえるということにもなり、オラクルのどんなアプリケーションやサービスも富士通のインフラ上で使ってもらえることを意味する。両社が提供するサービスにより、ワークロードをオンプレミスからクラウドに、非常に有利なかたちで移行することが可能になる。次世代のクラウドビジネスを一緒にやっていけることを非常にうれしく思っている」と、今回の提携がクラウドビジネスでの包括的な協業を意図したものであることを強調した。

米国からの中継で記者会見に参加した米オラクルのラリー・エリソン会長兼CTO。
富士通・山本正已会長(下)からの問いかけに笑顔で応じる。
富士通側からみれば、K5のオプションとして基幹系システムで圧倒的なシェアを誇るOracle Databaseのクラウドサービスを提供できるようになることは、ユーザーに対する大きなアピールポイントになると予想される。オラクルにとっても、今回の協業がOracle Database Cloud Serviceの拡販を後押しする効果が期待できそうだ。ただ、今回の提携のかたちで気になるのは、国内DCから提供されるOracle Cloudのラインアップに関して、少なくとも当面は、実質的に富士通が独占的に提供するかたちをとっている点だ。とくにPaaSとしてのK5とOracle Cloud Platformには、「基幹系システムのクラウド対応で強みを発揮できる」と謳っているという共通点もあり、富士通側が果たしてOracle Cloud Platformを積極的に顧客に提案するのかという疑問もある。日本オラクルの杉原博茂社長は、「富士通がOracle Cloudの独占的な販社になるというわけではなく、同様の協業関係を徐々に他のパートナーとも構築していきたい」との意向を示しており、今回の富士通とオラクルの協業がどれだけの成果を上げられるのかと同時に、日本オラクルがクラウドのパートナーエコシステムを今後どのように拡大していくのかも要注目だ。