サイボウズ(青野慶久社長)は8月14日、業務アプリ作成のためのPaaS「kintone」をアップデートした。API機能を強化したほか、アプリ作成画面のデザイン改善に注力したという。同社は、kintoneのアップデートに先立ち開いたメディア向けの説明会で、「デザイン」への投資を強化したねらいを解説した。
「新しいシステム開発」をさらに強力に推進

伊佐政隆
kintone
プロダクトマネージャー kintoneは、営業の案件管理、顧客対応履歴の管理、プロジェクト進捗やタスク管理、業務日報など、業務部門が使うフロントアプリケーションを手軽に開発できる環境を提供するというコンセプトのサービスだ。サイボウズの伊佐政隆・kintoneプロダクトマネージャーによれば、すでに契約企業数は4500社を突破し、「5000社も目前の状況」だという。8割のユーザーで、情報システム部門ではなく業務部門が直接の契約窓口になっているというが、同時にエンジニアのコミュニティも拡大しているという。伊佐プロダクトマネージャーは、「kintoneを使えば、業務に精通していてチームの課題を明確に理解している人なら、ITに関する業務の経験がなくてもシステム開発に着手できる。これに(情報システム部門やkintoneパートナーの)エンジニアが加わればさらにパワフルに拡張できる。この点がお客様に評価されている。エンジニア同士が情報を交換し合うコミュニティは全国28支部まで増え、勉強会も約100回開催されている。業務部門とエンジニアの両輪により毎日700個以上のアプリがkintoneで生み出されている」と話す。
近年、kintoneの顧客は海外にも拡大し、ユーザーも業種業態を問わず増えている。伊佐プロダクトマネージャーは、「丸投げではなくエンドユーザー参加型の新しいシステム開発をさらに強力に推進していくために、デザインの領域を重要視していて、昨年から専門のチーム、専用の部屋をつくるなど、大きな投資をしている」と、今回のアップデートでデザインの改善にとくに力を入れた背景を説明する。
デザイン専門チームがユーザビリティ向上を主導

柴田哲史
デザイングループ
マネージャー 新しいデザイン専門のチームである「プロダクトマーケティング部デザイングループ」は、現在のところ総勢9人という規模だ。うち3人がkintoneの担当だという。デザイングループのマネージャーを務めるのは、マイクロソフトで製品のユーザビリティ向上に取り組んできたというキャリアをもつ柴田哲史氏だ。柴田マネージャーは、「デザインそのものの工夫はもちろんのこと、その前段としてユーザーのリサーチをとくに重視している」と強調する。
事実、kintoneの今回のアップデートでは、「デザイン改善の基本的な指針として、よりシンプルで統一性のあるデザインや、より少ないステップ数でのアプリ制作を可能にするような操作性を目指したことに加え、ユーザーへのヒアリングなどによる検証を重ね、わかりやすい製品づくりを徹底した」(柴田マネージャー)。結果として、ユーザビリティテストでは、標準的な顧客管理アプリの作成時間、作成ステップ数ともに30%の削減に成功したほか、ユーザー評価も旧デザインと比べて向上したという。今後のデザイングループの活動としては、文化や言語、年齢、障害の有無を問わずに使える「ユニバーサルデザイン」の領域にフォーカスしていく。


小林大輔氏 一方、デザイングループに限らず、開発の現場からもユーザビリティ向上のためのボトムアップの取り組みが生まれている。これは、サイボウズというベンダーの大きな強みといえそうだ。kintoneの開発・運用に携わるプログラマーの小林大輔氏は、弱視の社員のユーザビリティテストをきっかけに、障がい者、高齢者を含めてすべての人にとって使いやすいクラウドサービスを目指す「ウェブアクセシビリティ」に大きな関心をもつようになったという。小林氏は、「グローバルでみると、アクセシビリティに関する国際基準が存在し、北米や韓国などでは個別に法整備も進んでいるが、日本では今年4月に障害者差別解消法が施行されたものの、民間企業のウェブアクセシビリティに関する取り組みは努力義務にとどまっている」と指摘する。そこで、社内の勉強会や技術発表会などを通じてウェブアクセシビリティの啓発に取り組み、今回のアップデートに際しても、国際基準にもとづいた機能の実装にこぎ着けた。「サイボウズはチームワーク溢れる社会をつくることを目標としている。当社の製品を通して、あらゆるユーザーが参加して活動することができる世界をつくっていきたい」と、小林氏は力を込める。
サイボウズのこうした取り組みが、kintone導入のハードルをさらに下げることになり、ユーザーのさらなる裾野拡大につながるのか。市場の反応に注目したい。