コンピュータソフトウェア協会(荻原紀男会長=豆蔵ホールディングス社長)は、文部科学省が2020年度から小学校でプログラミングを必修化する方針であることを受け、IT業界団体として講師や教育内容などを提言する目的で「プログラミング教育委員会」を設置した。荻原会長の肝いりでスタートした同委員会は、第1回会合を8月に開き、子ども向けのプログラミング教育で実績のあるさくらインターネットの田中邦裕社長を委員長に選出し、具体的な活動を開始した。2年後の2018年をめどに、同省に対し教育内容全体のあり方や業界の協力体制などを提言する予定だ。田中委員長に話を聞いた。(取材・文/谷畑良胤)
地域コミュニティをひきたてる
同委員会には、田中委員長をはじめ副委員長にコスモ・コンピューティングシステムの杉本淳一社長に加え、18社の各代表者が参加。田中委員長は、さくらインターネット、ビットスター、ナチュラルスタイル、jig.jpが子ども向けプログラミング教室を主催する「KidsVenture」などでの活動に実績があり、実際に全国でパソコン組立やロボット制御まで学べる教室を開いている。CSAJは、アイデアに富んだイノベーティブな人材を発掘・育成を目的にした「U-22プログラミング・コンテスト」の実行委員会として22歳以下の子どもの活動を支援している。

CSAJのプログラミング教育委員会の
委員長に選出された
さくらインターネットの
田中邦裕社長 第1回会合では、自治体の教育委員会などで子どもが参加するプログラミングに関する活動を教職員やIT関係者を巻き込み展開している先進地をヒアリングし、「教職員の養成方法やIT業界が外部講師として支援するための方法などを調べる」(田中委員長)としており、2年程度をかけて同省に対し、外部講師を使った教育プログラムや地域コミュニティのあり方などを国の予算面も含めて提言する方針だ。提言は、18年~19年にかけてまとめる。
田中委員長によれば、まずは先進地の視察を開始する。候補地としては、佐賀県武雄市と北海道石狩市をあげている。武雄市は、ディー・エヌ・エー(DeNA)の支援を受けて、小学一、二年生を対象にプログラミング教育に関するタブレットパソコン用の教材アプリケーションを提供したり、実証研究として授業を実施している。同研究では、39人の児童が受講し全員が翌年以降も継続して学習したいという意向を示している。石狩市は、さくらインターネットの石狩データセンターを置く自治体であり、田中委員長との関係が深い。「石狩市では市をあげて『手話』を言語とする条例を制定した。『プログラミング』をその次の言語として位置づけてもらうよう市長と話をしている」と、プログラミングを条例化するかは別としても、同市で活動を行う計画をたてている。
先進自治体からヒアリング
今年度(2017年3月まで)内は、こうした先進地をはじめ、プログラミング教育を未実施の自治体を含め「プログラミング教育の『ステークホルダー』である首長、自治体、教育委員会、公立学校の教職員、児童生徒、子どもの指導を支援する地域コミュニティのほか、文部科学省などから詳細をヒアリングする」(田中委員長)という。第二段階としては、「学校の教職員だけでなく、指導に関わるコミュニティなど、頑張っている人を抽出するほか、こうした支援体制がある教育委員会や学校に『指定研究』ができるよう国に提言する」(同)と、個別ヒアリングに加え、このヒアリングにもとづく具体的な教育体系や支援体制を実証研究の場で試みたいと考えている。
田中委員長は「プログラミングを志す子どもは、暗い趣味をもつと周囲から思われている。スポーツ競技と同じように、プログラミングで優秀な成績を上げた子どもが、地域内で注目されるように表彰することも考えたい。プログラミングの優劣で社会が変わることを広く認知させる。プログラミングは必修化により、職業教育としてでなく誰もが取り組む教科になる。IT業界にとっても、業界活性化の転換点になる」と強い決意を語る。

CSAJは「U-22」を支援しイノベーティブな人材の育成に取り組んでいるが、
こうしたコンテストはプログラミング教育の布石になる
ただ、実際にIT業界が必修化したプログラミング教育に関わるには紆余曲折が予想される。例えば、外国語教育(英語)を新設する際、通常の授業時間の削減や、外国人講師を配置するうえでの予算化など、実際に導入した後に教育体制を整備してきた経緯がある。IT業界関係者が教壇に立つうえで、外部講師として臨時で雇うのか、それとも「準教員」として教員免許制度の範疇で行うのか、文部科学省の方針がみえていない。田中委員長は「最適なあり方をヒアリングや実証研究から解き明かす」と、まずは課題抽出作業を急ぐ。必修化と時を同じくして、具体的な教育を実施できる体制を国や同省に提言したいとしている。
プログラミング教育の必修化は、産業界だけでなく社会や人の暮らしがITの技術で劇的に変化することが予想されるなか、子どもの頃からコンピュータ技術や原理、思考を学ぶ必要性があるとして俎上に上がっている。世界的にみても、英国や韓国、オーストラリアなど多くの国が、プログラミングに関連する情報教育に取り組んでいる。IT業界にとっては、ウェブエンジニアをはじめIT人材の不足が懸念されている。経済産業省の調査では、30年までに79万人が不足すると予測する。
CSAJは、IT業界団体として最大級の規模を誇るほか、同団体が主導し今年7月に53団体・約5000社が加盟する「日本IT団体連盟」(宮坂学会長=ヤフー社長)を発足するなど、産業界での存在感を増している。ITの利活用が社会や経済全体を押し上げることを考えると、情報教育に取り組む諸外国から遅れを取り戻す必要があり、そのためにも、IT業界内から早期の提言がほしいところだ。その上で、CSAJや日本IT団体連盟は重要な役割を果たすことが求められる。