米デルテクノロジーズは、10月18日から20日までの3日間、米テキサス州オースティンで、年次プライベートイベント「Dell EMC World 2016」を開いた。EMCの買収完了に伴うデルテクノロジーズの発足、Dell EMCブランドのスタートからわずか6週間後の開催とあって、まずは統合後のビジョンを改めて示すとともに、ようやく正式に船出した“世界最大の非上場総合ITベンダー”の可能性を強く市場にアピールする場になった。(取材・文/本多和幸)
基調講演を振り返る
デル会長兼CEO
「早くも統合成果の象徴となる製品を発表」 非上場企業だからこそR&D投資がふんだんにできる 
マイケル・デル
会長兼CEO メインイベントである基調講演に登壇したマイケル・デル会長兼CEOが強調したのは、市場のデジタル変革を牽引する企業を誕生させるべく、EMCを買収し、デルテクノロジーズを誕生させたということだ。「いま世界は、デジタルによる新しい産業革命の時代を迎えている。デルテクノロジーズは、これに備えるための非常に重要なインフラを提供可能な、信頼できるプロバイダといえる。多くの製品分野でトップに立つ会社として、デジタル産業革命を牽引していかなければならない」と、決意を述べた。
さらに、同社が市場のデジタル化ニーズに応えられる存在であることの根拠として、デルテクノロジーズに集結した製品・サービスポートフォリオが、米ガートナーのマジッククアドラントの20部門で市場のリーダーとしての評価を獲得していることを強調。「R&Dに毎年45億ドルを投資している。短期的な利益に縛られる必要がなく、お客様の利益だけにフォーカスできるプライベートカンパニーだからこそ、R&Dにこれだけの投資ができるのだ。今後は、あらゆる市場セグメントでナンバーワンを取る」とも話し、2013年にデルを非上場企業にしたことのメリットが、デルテクノロジーズでも変わらず生きてくるとの見解を示した。
デルとEMCの統合の製品戦略における成果の象徴として、旧EMC本体とデルテクノロジーズ傘下で独立企業として事業を継続する米ヴイエムウェアのテクノロジーを融合したハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)製品「VxRail」のアプライアンスに、デルの「PowerEdge」サーバーを搭載したモデルをラインアップすることを、基調講演で自ら紹介。「デルとEMCの合併が完了したのはわずか6週間前だが、両社とヴイエムウェアのイノベーションを結集した、世界でも一流の製品が早くも登場することになる。データセンターの将来を担う製品だ」と力を込めた。

VxRailは展示会場でも大きな注目を集めた
また、EMCとの統合によりポートフォリオが拡大したエンタープライズITのインフラを支える製品群だけでなく、PCなどクライアントソリューション事業にも変わらず注力することも明言した。(基調講演でのデル会長兼CEOの発言の詳細は本紙1651号にて既報)
ゴールデン・プレジデント
「“モダナイズ”を支えるのがDell EMC」 パートナーエコシステムも含めサービス体制を統合 
デヴィッド・ゴールデン
Dell EMC
インフラストラクチャソリューショングループ プレジデント 基調講演で、デル会長兼CEOからバトンを受けて登壇したのは、デルテクノロジーズ傘下でエンタープライズIT事業を担うDell EMCブランドのトップを務めるデヴィッド・ゴールデン・インフラストラクチャソリューショングループプレジデントだ。デルは従来、オンプレミス環境、複数のパブリッククラウド、プライベートクラウドなどを適材適所で組み合わせて使う考え方を「ハイブリッドクラウド」と定義し、デジタル変革を支えるITインフラとしてはそれこそが現実解だと主張してきたが、同氏もそれを踏襲。「ハイブリッドクラウドを導入することで、従来型のインフラと比べて24%コスト削減ができるとか、削減分のコストの4割は新しいイノベーションの開発やプロジェクトに回すことができるという具体的、現実的なメリットがある」と訴えた。
そのうえで、ハイブリッドクラウドに向けた“旅路”として、「データセンターの“モダナイズ”、IT部門のあらゆるプロセスの(ソフトウェア・デファインド化による)“オートメーション”、そしてそれぞれのワークロードの実行環境を最適化する“トランスフォーメーション”という、三つのステップが考えられる」と指摘。Dell EMCは、最初のステップであるモダナイズを支える製品をカバーしていくとして、デル会長兼CEOが紹介したPowerEdgeベースの「VxRail」のほか、スケールアウトNAS「Isilon」のオールフラッシュ採用製品など、今回のイベントで発表された新製品の概要を紹介した。
「PowerEdgeサーバーをVxRailに搭載した新製品を発表した。3RUという小型サイズにもかかわらず、108コア、RAMは2.4テラバイト、フラッシュストレージは90テラバイトを搭載して、価格は5万ドル以下。すばらしいと思わないか? 15年前は、同じくらいの性能を実現するには130台以上のPentiumサーバー、そして2000台以上のハードディスクが必要だった。VxRailは非常に多様性のあるパワフルなインフラを築くことができる。単にアプリやデータを走らせるだけでなく、バックアップを取ることもできる。しかもクラウド対応になっていて、さまざまなソリューションファミリーを走らせることができる」。
「オールフラッシュのIsilonは、これまでのハードドライブ型と比べて、スループットが10倍、密度も10倍になった。しかも、キャパシティは100ペタバイトが一つのファイルシステムで実現できるようになった」。
さらに、「デルとEMCのグローバルサービスの機能が合体することで、6万人ものプロフェッショナル、パートナーを確保し、個々のニーズに合わせてカスタマイズしたサービスを提供できるようになる」と、パートナーエコシステムも含めたサービス体制も統合を図っていることを強調した。
クラーク副会長
「PCにイノベーションがないという人は目を覚ませ」 EMCとの統合はクライアントソリューションにも追い風 
ジェフ・クラーク
副会長 デル会長兼CEOの右腕ともいえるジェフ・クラーク副会長は、クライアントソリューション事業の責任者を務める。デルとEMCの統合は、エンタープライズITの領域でのシナジーはイメージしやすい。しかし、その統合効果がはっきり現れるほど、PCを含むクライアントソリューションのプレゼンスは相対的に低下してしまうのではないかとも思える。しかし、ゴールデン・プレジデントの後を受けたクラーク副会長はそんな外野の疑問を吹き飛ばすように、パワフルに登場した。「デルテクノロジーズの船出に、非常にエキサイトしている。PowerEdge搭載のVxRailをデルのVDIソリューションに組み入れ、世界でベストなVDIのエクスペリエンスを提供できる」として、クライアントソリューション事業にもポジティブな影響を与える統合だったことを示唆した。
「デルだけがPCのシェアを伸ばしている」として、PCビジネスにも引き続き積極的に投資していく意向も示した。「PCがタブレット端末に取って代わられるとは思っていない。小型軽量なビジネスPCには現在も大きな需要があり、デルの製品が支持されている。15四半期連続でPCのシェアは伸びている」としたうえで、「PCにイノベーションがないという人には目を覚まして欲しい。グラフィックスもコンピューティングもどんどん進化している。性能は15年で1000倍上がっているのだ。入力方法もどんどん変わってきていて、進化はさまざまな側面から続いていく」と訴え、会場を沸かせた。
お・さ・ら・い デルテクノロジーズの体制
デルがEMCを670億ドルで買収すると発表してから1年近くが経過した今年9月、ようやく買収が完了し、売上高740億ドル、従業員数14万人という、世界最大の非上場総合ITベンダー「デルテクノロジーズ」が誕生した。実際にはデルテクノロジーズは持ち株会社で、傘下に事業会社としてのデルを新たに設立し、PCや周辺機器などのクライアント・ソリューションはそのままデルブランドで、EMC本体の事業やデルのサーバーなどエンタープライズIT事業は「Dell EMC」という新ブランドで展開していく。なお、旧デル、旧EMC傘下のヴイエムウェア、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustreamといった企業は、個別の企業としての事業を継続する。

デルテクノロジーズグループのポートフォリオ
デル会長兼CEOは基調講演で、「ハイブリッドクラウドに向けての旅路では、データセンターの“モダナイズ”、IT部門のあらゆるプロセスの(SDxによる)“オートメーション”、そしてそれぞれのワークロードの実行環境を最適化する“トランスフォーメーション”という、三つのステップが必要になる」と指摘している。モダナイズはDell EMC、オートメーションはヴイエムウェア、トランスフォーメーションは基幹系システムのワークロードに最適化したIaaSを提供するVirtustreamと、すべてのステップをカバーする有力なブランド・企業群が集結したことをアピール。さらにはCloud Foundryのディストリビューションを提供するPivotal、デルが2010年に買収したインテグレーション機能特化型PaaSのBoomiなど、PaaSレイヤも網羅していることも説明した。
インタビュー デルテクノロジーズ
トム・スイート エグゼクティブバイスプレジデントCFO
EMCの買収が完了する前に、デルはサービス部門やデル・ソフトウェアを売却することを発表したが、今後のデルテクノロジーズの事業にどんな影響があるのだろうか。日本メディアの取材に応じたトム・スイート・エグゼクティブバイスプレジデントCFOに、一連の事業売却や今後のM&A戦略について直撃した。
――資金調達もCFOの重要なミッションだが、サービス部門やデル・ソフトウェアの売却は戦略上どう位置づけられるのか。スイート 非常にポジティブなものだ。デル、EMC、両社のパートナーシップのあり方を考慮し、どの資産を保持すればより有益になるかを慎重に検討した結果。
例えばサービス事業については、サービス事業部門で一つの業種だけに専念しているいくつかの会社を売却したということ。基本的に、デルはサービス部門の中核ではないコンサルテーション分野を中心に売却している。Dell EMCのサービス部門は両社の組織が統合され、引き続きグローバルなサポート、デプロイメント、プロフェッショナルサービスの提供に専念する。(サービス事業の売却先である)NTTデータなどとは強固なパートナー関係を維持していて、今回の決断は、当社にとってのパートナーであるSIerと競合関係になることを避けるという意味でも従来の課題を解決したものといえる。
――EMCの買収完了で、M&Aは落ち着くのか? スイート 具体的なプランはいえないが、まだまだ続く。資産は十分にもっている。市場をよくみて判断していくことになるが、買収だけに頼らずパートナーシップの拡大なども検討していく。