【サンフランシスコ発】AWSとMicrosoft Azureの二強体制が進むパブリッククラウドの世界で、彼らを追いかけるベンダーはどのように差別化を図り、成長への道筋を描くのか。米オラクルは、エンタープライズITで求められるセキュリティーと可用性、信頼性の追求こそが自らの生きる道だと考えている。クラウド市場の巨大な競合と戦うために、データベースソフトの圧倒的トップベンダーが生み出した武器とは――。(本多和幸)
エリソン氏「新次元のセキュアなクラウドを実現する」
米オラクルが例年サンフランシスコで開催している年次イベント「Oracle Open World」では、創業者であるラリー・エリソン会長兼CTOの基調講演がメインイベントと言える盛り上がりを見せる。歯に衣着せぬ発言で知られるエリソン会長は、競合ベンダーを批判することを躊躇しない。それは結果として、現在オラクルがどんなベンダーを競合と捉えていて何にフォーカスしているのかを明確に外部に説明するという役割を担っている。
10月22日から25日までの4日間にわたって開催された「Oracle Open World 2018」でエリソン会長が打ち出したのは、エンタープライズITのミッションクリティカルなワークロードにおけるセキュリティーと信頼性への要求を満たす第2世代のクラウド「Oracle Gen 2 Cloud」こそが同社のクラウドビジネスにおける競争力を担保するというメッセージだ。エリソン会長は、「セキュアなクラウドだとアピールするのは簡単だが、実現するのは簡単ではない。オラクルはソフトウェアレベルの改良だけでなくハードウェア構成も完全に刷新し、まったく新しいクラウドアーキテクチャーをつくりあげて、真にセキュアなクラウドを実現した。それがGen 2 Cloudだ」と胸を張った。
Gen 2 Cloudの差別化ポイントを構成する主な二つの要素が、新アーキテクチャーによるIaaSの「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」と、昨年のOpen Worldにおける最大の発表となった「Oracle Autonomous Database」だ。エリソン会長は基調講演の中でOCIに最も力を込めてプレゼンしたという印象だが、従来のIaaSと何が違うのか。エリソン会長は、「従来のクラウドは複数のユーザーのクラウド環境はもちろん、それを管理・制御するクラウドサービスベンダー側のコード(Cloud Control Code)も同じコンピューターの中に存在している。これでは(理論上)悪意を持ったユーザーが同じコンピューター上のほかのユーザーのデータを盗んでしまう可能性を排除できない」と指摘した上で、「OCIはユーザーが利用できるクラウド環境とCloud Control Codeを物理的に違うマシンに分離している」と説明した。
このOCI上でAutonomous Databaseのクラウドサービスも提供する。Autonomous Databaseは稼働しながらセキュリティーの脅威の検知や排除をまさに自律的に行い、システムを止めることなくセキュアに運用できるという。エリソン会長は、Gen 2 Cloudにより、従来のクラウドのセキュリティーと可用性、信頼性への懸念が払しょくされ、オンプレミスの既存ワークロードのクラウド移行をさらに推進できるとの見解を示した。また、エリソン会長は恒例となったAWSとの性能比較のデモも自ら行った。Gen 2 Cloud環境下でデータベースの性能を比較すると、条件によっては「Oracle CloudがAWSの100倍速い」こともあり得るという。「AWSより安く、速く、セキュア」だと繰り返し強調した。
オラクルは19年中に“ハードウェア設置型”のクラウドサービス「Cloud at Customer」のGen 2 Cloud対応を進めるほか、現在は米国と欧州に限られているGen 2 Cloud提供リージョンを、2019年末までにオーストラリア、カナダ、日本、韓国、インド、ブラジル、中東などに拡張する。日本では、19年5月に東京、12月に大阪でデータセンターが稼働する計画だ。