パシフィックビジネスコンサルティング（小林敏樹社長、PBC）、日本ビジネスシステムズ（牧田幸弘社長、JBS）と日本マイクロソフト（平野拓也社長）は6月5日、マイクロソフトが提供するSMB向けクラウドERP「Microsoft Dynamics 365 Business Central（BC）」に特化したパートナーコンソーシアム「Cloud ERP Partner for SMB（CEPS）」を設立した。日本の企業の大部分を占め、約400万社とも言われる中小企業は、デジタルトランスフォーメーション（DX）の取り組みが特に遅れていると指摘される。レガシーシステムを刷新し、DXへの体制を整えるための“救世主”としてのERP価値をSMB市場に強く訴えていく。（銭 君毅）

パートナー網を本格的に構築

　Dynamics 365 BCはマイクロソフトが提供する中小企業向けのERPソリューションだ。近年、同社のビジネスアプリケーション群が「Dynamics 365」シリーズとして全面的にリブランドされたことに伴い、旧「Dynamics NAV」の機能を完全に継承した上で誕生した。

　マイクロソフトはDynamics NAV事業を、グローバルでそれぞれの地域のパートナー企業が製品をローカライズするという形態で展開してきた。PBCはDynamics製品がマイクロソフトに買収される前からDynamics NAV事業を手掛けており、日本や東アジア、東南アジア向けのローカライズを担ってきた。

　ただし、それ故にと言うべきか、日本におけるDynamics NAVの顧客開拓は半ばPBCが独力で行ってきた経緯があり、日本マイクロソフトの役割もDynamics NAVに関してはPBCの側面支援にとどまっていた。結果、グローバルで22万社を超える導入実績があるDynamics NAVのポテンシャルが、日本市場では十分に生かされていない状況だったと言えよう。

　CEPSの発足により、Dynamics NAVの後継であるDynamics 365 BCについては、日本マイクロソフトもビジネスの“当事者”となった上でパートナーエコシステムを構築し、日本でも本格的に拡販に力を入れていく方針が示されたことになる。CEPSは、PBCに加えてマイクロソフトのクラウド製品の導入支援で豊富な実績を持つJBSが主幹事となり、日本マイクロソフトが事務局を務める。この3社以外に、ERPを含む基幹業務システムのビジネスを手掛けてきた実績のある12社のSIerがコンソーシアムへの参加を表明しているという。

　CEPS参加企業は、今後3年以内に1000社へのDynamics 365 BC導入を目指す。また、リソースを確保するために1000人の技術者も育成する計画だ。
   

「2025年の崖」に危機感

　こうした動きの背景には、日本の中小企業においてもビジネスアプリケーションに対する意識が変わりつつあるという事情がある。米マイクロソフトでDynamics 365やAzureのマーケティングを統括する沼本健・コーポレートバイスプレジデントは、「ITに対して大きな投資をかけることができない中小企業では、機能ごとに単品のソリューションを導入していることが多い。レポーティングするにしても複数のシステムのデータを統合的に活用するのが難しい状況にある」と指摘。財務、セールス、サービス、生産、SCMなどを統合したオールインワンのERPであるDynamics 365 BCであれば、その課題を解決できると強調した。
 
　一方で、ERPは従来、導入コストが嵩むことが多く、中小企業が導入するにはハードルが高かったのも事実。しかし、経済産業省が昨年9月に発表した「DXレポート」が市場に波紋を広げた。同レポートでは、日本企業がレガシーシステムを早急に刷新しなければ、新たなビジネスのためのITに人や資金を振り分けられなくなり、事業継続が危ぶまれる事態になることを「2025年の崖」と名付けて警告。これにより中小企業でも危機意識が醸成され、レガシーシステム刷新の受け皿として、クラウドERPの需要が高まっているという。

　Dynamics 365 BCが昨秋に日本でリリースされて以降、PBCにも多くの問い合わせが寄せられ、現在、10件のプロジェクトが進行中。受注の内定が10件、商談中の顧客は約40社という状況で、「市場の変化を実感している」（同社の荻田篤史・取締役）という。荻田取締役は、「すぐに導入したいというお客様も多く、導入待ちが発生してしまっている。このニーズに対応できないのは、当社やマイクロソフトにとっての損失というより、日本のSMBにとっての損失になる」と、CEPSの立ち上げに動いた理由を説明する。

　3年で1000社への導入という目標を達成し、Dynamics 365 BCの日本市場への浸透を実現するためには、SMB市場にフィットしたコスト感と短期導入への対応が重要になる。Dynamics 365 BCはクラウドベースで展開されるため、初期投資と保守費用を抑えることができるという特徴があるが、加えてテンプレートなどを活用し、カスタマイズを排したスピーディーな導入手法をCEPSメンバー企業間で共有していく。最短3カ月での導入が可能になる見込みだという。JBSの櫻田浩・執行役員は「個別カスタマイズはパラメーターの設定にとどめ、コンサルティングと現場教育を通じて業務をERPに合わせていく」と説明する。

　認知度の向上も課題だ。CEPSは、各メンバー企業が得意とする領域への提案を強化しつつ、全国の中小企業に向けて需要喚起のイベントを開催する予定。さらに、CEPS参加企業も今後、広く募っていく方針だ。