金沢唯一のマイコンショップに通い詰めていた青年だった。父親の不幸で工業大学を中退。飲食店アルバイトや事務機セールスなどを転々とし、金沢市内でプラスチック工場に勤めていた81年、マイコンに魅せられる。「マイコン屋の若い店員のなかで、やたらに歳をとったオヤジが細野(昭雄)さんだった。『シャープMZシリーズ関連の仕事をやらないか』と声をかけてもらったときは嬉しかったよ。その足でプラスチック工場に行き、辞表を叩き付けてやった」
以来21年間、開発一筋。細野社長とともにアイ・オー・データ機器を大きくした。入社当時の資本金400万円が今では35億円。「しかし、会社が大きくなると、売りたいモノよりも売れるモノを探してこなきゃならなくなる。どこのベンダーも、台湾や中国からの売り込み商材の選定に気を取られて、モノをつくる余裕がない」「もう一度、自分が欲しいと思えるモノをつくりたい――」。今年5月、アイ・オーを辞めて、RAIDコントローラ開発のビスタポイントを起業した。「資金調達はまだこれから。メーカーと言っても社員は22人しかいない。単身で上京したので、カミさんは金沢で寂しがってる。でも、自分たちの手の届く範囲で、顧客に役立ついいモノをつくりたい」開発屋の意地を賭けたモノづくり宣言である。
プロフィール
(まち ゆきお)1955年、石川県金沢市生まれ。75年、金沢工業大学を中退。81年、アイ・オー・データ機器(細野昭雄社長)入社。開発一筋で常務取締役まで昇りつめる。02年5月、解散した子会社アイ・オー・ネットの業務を引き継ぐ形で、ハードディスクを使った記憶装置「RAID(レイド)コントローラ」開発のビスタポイントを起業。来年度(03年12月期)は売り上げ17億円、営業利益6000万円を見込む。