黙々と基板配線の設計に専念した。社内の多くは、「塚田は何をしている人だろう」と不思議がった。誰も彼の仕事の中身を知らないのだ。そんな彼が一躍脚光を浴びたのは、昨年9月、米標準化団体のJEDEC(ジェデック)の「議長賞」を獲ったとき。メモリ基板の標準化に貢献したのが受賞理由。同分野では世界で3人目という快挙だ。
2000年、ITバブル真っ盛りの頃、「とにかく売れる」時代だった。社内でコツコツ基板をつくるよりも、台湾から出来合いを買ってきた方が手っ取り早い。基板設計の塚田さんの仕事は、どんどん少なくなった。「仕方がないので、これまであまり関わっていなかったJEDECで、メモリ基板の標準化活動を始めた。IBMやインテルの技術者よりも独創的で美しい配線を考案する。見事、規格化されれば、ぼくの作品を歴史に残せる」。だが、経費はすべて手弁当だ。
米国の技術者との共同作業になると、時差で昼夜が逆転した。「英語が分からず、電話会議で相手の言ってることが分からない。拝み倒して、あとで文書で送ってもらうこともしばしばあった」メルコは、今、自社設計を重視している。競合との差別化のためでもあるが、努力さえすれば、世界標準を自らつくりだせることが、塚田さんの活動で証明された要因も大きい。
プロフィール
(つかだ かずよし)1957年、岐阜県生まれ。79年、電気通信大学卒業。同年、新明工業入社。88年、メルコに転職。電子部品の基板設計に従事。「赤や緑の配線が天井いっぱいに広がっている夢を見る。それを眺めていると、突然、美しい電気的特性を描き出せる新しい手法が頭のなかに閃く」という。JEDEC=Joint Electron Device Engineering Council。米電子機械工業会の一部門。