電力会社がNTTの仕事に割り込んでくる時代だ。NTTが電力会社のビジネスモデルを真似しても構わんだろう――。鑓水さんが、グリッドビジネスを始めたきっかけだ。「ただ単にコンテンツを流すだけでは、NTTは土管(電話線)をもっていることだけしか取り柄がなくなる。そうではなくて、何か、付加価値が欲しい」
従来3分10円だった土管の使用料さえ取れなくなるなか、「NTTグループ全体にとってもグリッドは戦略的に意義がある」と、社内公募制度で名乗りを上げた。当時、たまたま研究開発を担当していた井上友二部門長(今はNTT本体の役員)に運良く拾われ、プロジェクトが立ち上がった。だが、ビジネス化の道のりは遠い。NTTの所轄省庁にも出向いて企画をぶちあげたが不発に終わった。「グリッドがやれなかったら、会社を辞める」
強い思い入れがあった。昨年12月には、手弁当で国内初の大規模実証実験を始めた。数十万台規模のグリッドにする計画だが、まだ7800台のパソコンしか集まらない。「方向は間違っていない。インターネットは、莫大なコンピュータ資源を取り出せる発電所だ。必要な人が、必要なだけ、まるで電力のように資源を取り出せれば、俄然、便利になる」これからが本番だ。
プロフィール
(やりみず しょうじ)1972年、神奈川県生まれ。97年4月、大学卒業後、NTTデータに入社。グリッドコンピューティングとは、ネット上に分散するコンピュータを結びつけ、スパコンを超える強力な演算能力を引き出す仕組み。大規模実証実験「セルコンピューティング」は今年3月まで続ける。当面は、科学技術計算を必要とする企業や研究所向けに演算資源を販売する。将来的にはグリッドで電力型のビジネスを立ち上げる。