情報セキュリティの暗号技術界で、解読に100億年かかるといわれてきた無線通信暗号「Toyocrypt」。現実には解読不可能とされ、かつて電子政府推奨暗号の候補にもあがったこの難解な暗号を、わずか27分で解いた男がいる。IPAの杉田誠・セキュリティセンター暗号グループ研究員である。
「多次多変数連立方程式の解法」と呼ばれる解読方法を用いて、その暗号をコンピュータで解くためのプログラムを、2人の天才プログラマとともに共同開発。グリッドコンピュータ上で動作させた結果、27分という驚異的なスピードで解読に成功した。
「チームを組んだ2人と協力すれば、解けるという勝算が、始める前から確実にあったんです。当初の予定より時間はかかったけど、ほぼ計画通り」
苦労は微塵も感じさせない。解いたプログラムの技術的手法を、淡々と説明する。
だが、数学に没頭していた学生時代は、天才数学者を何人も目の当たりにして、「数学で一生飯を食っていけるか」という不安を抱いていた。これが、暗号研究に転身した理由でもある。
数学者としての道をあきらめた苦い過去があるが、根っからの研究者は、今では暗号の世界的権威者から、アドバイスを求められるほどの立場にいる。
「世界の暗号研究者と肩を並べて真っ向勝負したい」
日本を代表する暗号研究員の目は、世界に向いている。
プロフィール
杉田 誠
(すぎた まこと)1967年生まれ、87年、京都大学理学部入学。91年、卒業。同年、同大学大学院理学研究科修士課程数学専攻入学。93年、修了。93年日本電信電話(現NTT)入社。03年、NTTドコモに転籍。03年、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)に出向。一貫して情報セキュリティに対する研究および製品開発を行い、特に暗号化技術の調査・研究に従事する。