「組み込みソフトのでこぼこな開発環境を平らにしたい」──。そんな想いから、OSS(オープンソースソフトウェア)のGUIアプリケーション統合開発環境「WideStudio/MWT」を開発、今年10月にはIPA(情報処理推進機構)の「2006年度日本OSS貢献者賞」を受賞した。
この開発環境は、Windows、Linux、Mac OS X、BTRON、T-Engine、μCLinuxなどで動作するGUIアプリケーションを開発できることが特徴。OSSの活用は、ソフトウェアの共通インフラ整備に適していたためだ。「新しい技術を駆使して開発したわけじゃないんですよ。一般的な“枯れた”技術で地道に開発した」のだそうだ。
これは、最新技術を使ったからといって、良いものがつくれるとは限らないことを物語っている。「開発者は、新しいものに飛びつきたがる。しかし、ソフトやシステムは、そもそもユーザーが現場で抱える問題を解決するために開発するもの。30年前、20年前と市場環境が変わっても、開発者の使命は変わらない」と言い切る。ユーザーが使いやすいものを開発する。実際、WideStudio/MWTは複数のOSやCPUなどに対応しなければならない組み込みソフト開発者の間で人気を集めている。これは、自身の「使ってもらう喜び」にもつながる。
「技術者としての指標を出したかった」のも理由のひとつ。日本は、組み込みソフトの本場であるにもかかわらず、世界での存在感が薄れつつある状況だ。「このままでいいのかという意識はある。だからといって、日本の開発力が世界に通用しないわけではない」。
WideStudio/MWTの開発で、世界に通用することを証明したのではないだろうか。
プロフィール
平林 俊一
(ひらばやし しゅんいち)1971年生まれ。東京工業大学情報工学科卒業。93年、富士電機に入社し、GUIミドルウェア開発に従事。99年、富士通に入社。同社で基幹通信ミドルウェア開発に携わる。現在は、組み込みソフトウェア部門に所属し、WideStudioの開発を通じてOSSの発展、普及に尽力している。04年度にIPAの未踏ソフトウェア開発事業でスーパークリエータに認定される。06年、日本OSS貢献者賞を受賞した。