IT人材の育成強化を目的に、国がつくった初めてのITスキル指標「ITスキル標準(ITSS)」。誤解も多く、普及したとは言い難いITSSの普及活動を地道に続ける。コンサルタントとして、ITベンダーや企業のIT部門に対してITSS導入もサポートする。導入の成功企業として知られる製薬会社ファイザーのコンサルティングを担当したのも高橋秀典氏である。
RDB(リレーショナルデータベース)で「他社よりも5年先を走っていた」オラクルに、システム開発会社から転職。認定資格制度「オラクルマスター」を企画し、1年間で1万人の合格者を出すヒット資格に仕立てた。新宅正明・日本オラクル社長からはバイスプレジデントのポストを用意してもらったこともある。自ら希望して入社したオラクルでの仕事は、他人から見れば順風満帆。しかし、そのポストを断り、今の道を選んだ。きっかけは「ITSS」との出会いだった。
「新卒の若い社員が自分のキャリアプランを描けずに3年サイクルで辞めていく。そんな状況に違和感があった」
人材育成を軽視しがちな日本のIT企業に、その必要性を説き、有効的なツールと判断したITSSの普及活動に力を尽くすことを選んだ。NPO団体の専務理事を務めながら、自身で設立したコンサル会社の代表を務め、コンサルタントとして現場にも出る忙しい日々を送り続ける。ベンチャーの立ち上げに加え、NPOの運営にもお金がかかる。自身の財産で賄った時期もある。報酬の面でいえば、オラクルのほうが好条件だったかもしれない。
「自分の意志でやりたいと思ったことができている。お金以上の価値がある仕事だという実感があるからこの道を選んでよかった」
プロフィール
高橋 秀典
(たかはし ひでのり)システム開発会社などを経て1993年、日本オラクル入社。96年からは、顧客向けの製品トレーニング・研修ビジネスの責任者。技術者認定資格制度「ORACLE MASTER(オラクルマスター)」をスタートさせる。開始後1年間で合格者は1万人に達した。01年、システム・エンジニア統括・執行役員。03年12月、「ITスキル標準(ITSS)」普及促進活動のITSSユーザー協会を設立。専務理事に就任。04年7月、人材育成プラン作成やITSS導入支援サービスを手がけるコンサルティング会社、スキルスタンダード研究所を設立。代表取締役に就任。ITSS普及に向けて業界団体や政府機関にも積極的に協力。情報サービス産業協会(JISA)の人材育成委員会委員ほか、経済産業省の評価ガイドライン策定委員会委員、日本情報システムユーザー協会(JUAS)のユーザー用ITスキル標準策定委員会オブザーバーなども務めた。