「財務の北尾、人事の北原」。1990年代後半から00年代前半、ソフトバンクグループのカネとヒトを統括し、孫正義を支えた2人をIT業界ではこう呼んでいた。
「北尾」とは、SBIホールディングスのCEOを務める北尾吉孝を指す。「北原」とは、現在ラクラスの代表取締役社長を務める北原佳郎のことだ。05年に人事関連のBPOとSaaS型サービスをひっさげて独立。起業してまだ3年にも満たないが、今年度(08年12月期)8000万円の利益を見込むなど業績は好調で、IPO(新規株式公開)を視野に入れている。
北原は富士通、ソフトバンクグループで、約25年一貫して人事畑を歩んできた人事のプロ。日米で人事戦略を学び、著書も多い。ソフトバンクではグループ全体の人事関連業務をコントロールしていた。ラクラスでの事業モデルは、もともとソフトバンクのグループ企業向けに考案したもの。会社の方針転換で計画が白紙になり独立を決意、現在がある。
「大半の人事部門は、雑務に追われて本来やるべき戦略的な仕事をしていない」というもどかしさが、北原の背中を押したのだ。 「孫さんに対しては、いろんな気持ちを抱いているけど、良くも悪くもかなりの影響を受けた。彼に出会ったことで起業のふん切りもついた。独立するリスク? 孫さんに比べれば自分なんてたいしたことないからね」。
培った経験と知識を武器に、日本の人事業務を変えようと、物腰柔らかな態度の内側に闘志を秘める。かつて「人事の北原」といわれた人物は、ラクラスのトップに立場を変え、今も人事改革を推進している。(文中敬称略)
プロフィール
北原 佳郎
(きたはら よしろう■1955年11月生まれ。78年、慶應義塾大学経済学部卒業後、富士通に入社。人事関連業務に従事する。■86年、本人の希望で米富士通マイクロエレクトロニクスに出向し、人事マネジャーを務める。92年、富士通に戻り人事部国際人事課長。94年、VLSIテクノロジーに移り、管理本部長兼マーケティング本部長。■97年、ソフトバンク入社。総務人事本部長に就任。99年、ソフトバンクグループの人事関連業務を手がけるアットワークの代表取締役社長。03年からはソフトバンクBBの総務人事本部長を兼務する。■05年、ソフトバンクグループの全役職を退任し独立。ラクラスを設立して代表取締役社長に就任する。■執筆活動にも精力的で、著書に「アメリカ企業の人事戦略」(日本経済新聞社)や「SaaSはASPを超えた」(ファーストプレス)などがある。)