地方都市の小さなSIerが世界のソフト開発のあり方を変えようとしている。
オブジェクト指向型のスクリプト(簡易)言語「Ruby(ルビー)」は、扱いやすさから北米を中心に利用者が急増。小さなプログラムなら本格言語のJavaに比べて開発時間を数分の1に縮められる。世界で評価されるRubyを生み出した技術者・まつもとゆきひろは、島根県松江市に本社を構える社員約50人のネットワーク応用通信研究所(NaCl)のプログラマの1人だった。
まつもとが技術者コミュニティの中心メンバーとして活動できたのは、会社の“放任主義”があったからこそ。NaCl社長の井上浩は、Rubyがまだ無名だった頃から「これほど優れたスクリプト言語はない」と信じて疑わなかった。経営が苦しいときもあった。しかし、世界中の技術者と交流を深めながら、Rubyに磨きをかけるまつもとを、文句ひとつ言わずに見守った。
海外でのムーブメントが逆輸入される形で、国内でもRubyユーザーが増え始めた。大手SIerの伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は複数のSIプロジェクトに適用する。昨年7月には「技術者コミュニティと実ビジネスの橋渡しをする」ためにRubyアソシエーションを立ち上げ、Ruby技術者の認定試験も開始した。
Ruby公開から12年余り。引き合いを受けきれないほど、「Rubyを使った開発需要が高まっている」と、うれしい悲鳴をあげる。 今後は、並列処理や仮想化など新しいアーキテクチャに対応するため、さらに言語を発展させる必要がある。「次代を担う世代に、夢を与えることができるプログラマであり続けたい」と気を引き締める。(文中敬称略)
プロフィール
まつもと ゆきひろ
(まつもと ゆきひろ)■1966年、大阪府生まれ。4歳のときに鳥取県米子市へ転居。高校卒業後、84年に筑波大学入学。在学中2年間のキリスト教の宣教活動に従事。90年、同大学卒業。■ソフト開発会社などで経験を積み、95年、独自に考案したオブジェクト指向のスクリプト言語「Ruby(ルビー)」を公開。■97年、ネットワーク応用通信研究所入社。07年7月、合同会社Rubyアソシエーション設立。理事長に就任。■ネットワーク応用通信研究所フェロー。楽天技術研究所フェロー客員研究員。