動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営するニワンゴを率いるのが杉本誠司だ。世界規模で展開するライバルのユーチューブには及ばないが、中身の濃さでは負けていない。日本独自のサブカルチャーであるアニメやゲームをテーマにした作品の多くは、ニコニコ動画ならではのもの。
「自分たちの好きなものだけを視聴していたいと望む、濃いユーザーコミュニティをつくれた」ことが成長の原動力。グループ全体のユーザー数は、現状の2倍にあたる2000万人が今の路線の延長線上に見えている。
大きくなればなるほど課題も重くなる。著作権問題だ。今も権利者の許諾がないキャラクターを使った作品が見られる。個人が習作でつくったものでも、今のニコニコの影響力の大きさを考えると「許されない」。違反動画は積極的に削除することで対応する。
ただ、ユーザーが作品創造に参加したいという希望が断たれたわけではない。電子の歌姫として大ヒットした“初音ミク”は、版権元がミクのキャラクターを使った二次創作に寛容だったことが支持を得た要因の1つ。ミクの販売本数や関連グッズのビジネスは大成功した。ニコニコ動画によってキャラクター作品の付加価値を高めた好事例だ。
権利者の承諾のもとに、ニコニコがユーザーとともに作品の価値を高める存在として認知されれば、「せっかくの創作物を削除しなくてもすむ」。作品の価値が高まることで、自ずとステークホルダー各社の収益モデルはみえてくるはず。
アニメやゲームを愛するユーザーの質と量では世界有数といわれる日本。作品をユーザーとともに育てる「コミュニティの新しい可能性」に手応えを感じる。(文中敬称略)
プロフィール
杉本 誠司
(すぎもと せいじ)■1967年、東京都生まれ。89年、桜美林大学経済学部卒業。■気象情報会社のウェザーニューズなどを経て、03年、ドワンゴに入社。■ニワンゴの立ち上げに携わる。07年12月、社長就任。ニコニコ動画の運営指揮にあたる。■ニコニコ動画のユーザー数はサービス開始から1年余りで560万人に急増。親会社で携帯電話向けのコンテンツ配信サービスなどを手がけるドワンゴの登録ユーザーを合わせるとグループ全体で1000万人規模に達する。