不況をものともせず、売り上げを伸ばしている商材の一つが仮想化ソフトだ。ハードウェアの物理的な制約を受けず、ITシステムを効率よく管理できる。ITの運用コスト削減に強い関心を抱くユーザー企業から引き合いが盛んに来ている。
サーバーやパソコン、ネットワーク機器などが飛ぶように売れた1990年代とは隔世の感がある。山中理惠は、こうしたIT商材の移り変わりを冷静かつ客観的な目で見つめてきた。メインフレームからクライアント/サーバー(C/S)、ウェブ、SaaS・クラウドへとITは大きな変化を続けている。日本IBMからキャリアをスタートさせ、外資系コンサルティング、シスコシステムズと経験を積んできた。今では、「海外のパラダイムシフトを日本のユーザーに伝えることがライフワーク」になりつつある。
駆け出しの頃は、「“業務も知らんくせに。IBMがなんぼのもんじゃい”と、顧客担当者によく叱られた」。叱られるのは可愛がられていることの裏返しなのだが、「業務のあり方を変えましょう」と提案する立場としては内心忸怩たるものがある。何度も現場に足を運び、一から教えてもらった。
間もなくブロードバンド(BB)通信時代へと突入。山中もネットワーク業界へと移る。BB化が一巡するタイミングで、SaaS・クラウド時代の幕が開ける。今はネット上でソフトサービスを展開するのに欠かせない仮想化ソフトの拡販に取り組む。「日本のユーザーが、いま最も必要としているものを売り、コスト削減や競争力の向上に貢献する」ことが信条だ。「そういう目利きが自分にはできる」と自負する。
日本の生産技術や品質管理は他国にはない強み。ただ、こうした現場の業務が“金科玉条”と化し、「企業全体を根底から変えられないジレンマ」の姿も目にする。経済環境の悪化に追い込まれるように、パラダイムシフトは起こり続ける。海外の斬新な発想を活用し、「日本経済を再び強くしたい」と願う。(文中敬称略)
プロフィール
山中 理惠
(やまなか りえ)大阪府生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業。日本IBM入社。事業開発を担当。日本IBMで6年ほど勤務したのち、外資系コンサルティング会社で戦略コンサルティングを担当。米国ネットワーク機器ベンチャーに入社。2001年、シスコシステムズ入社。執行役員。03年、米シスコシステムズで製品開発を担当。06年、米ヤフー入社。08年、シトリックス・システムズ・ジャパン入社。現在に至る。