ものづくりを実感することが技量を高める第一歩──。NECシステムテクノロジーで組み込みソフト開発を専門とする田靡哲也は、ユーザーが製品を実際に使うシーンを常に思い描きながら仕事に取り組むことで、自分のスキルを磨いている。2008年にはこうした努力がマイクロソフトに認められて、Windows Embedded分野でMVPを受賞した。
過去に苦い経験がある。文系出身の田靡にとって当初、ソフト開発は苦痛だった。設計図を手渡され、その通りにつくる。「入力と出力のそれぞれの接続口があるので、どこかの部品なのだろう。だが、何に使われるのかさっぱり分からない」。モチベーションは高まらず、顧客企業に対する“この製品はこうしたほうがもっとよくなる”といった改善提案もままならない。
「これではダメだ」と思った。他の組み込みソフトベンダーとの差別化もできず、価格競争に巻き込まれる。値段が安いだけではインドや中国などの新興ベンダーに勝てない。NECシステムテクノロジー全体を見渡せば、他の事業部でハードウェアの設計や業務ソフトの開発も手がけている。ならば、ハードからソフトに至るまでトータルで請け負えば全体感が掴みやすい。自社の営業担当者とも連携し、顧客企業の製品開発と歩調を合わせてトータルで開発する仕事を増やした。最終製品のその先にあるユーザーの立場を具体的にイメージできるようになり、改善方法が見えやすくなった。
独創的なアイデアは、改良に次ぐ改良の中で生まれる。ここに、ものづくりの最大の付加価値がある。自分のつくったものが「こんなふうに社会で役立てられている」という実感を抱くことで、初めて次のステップに踏み出せる。後輩の育成もはかどる。世界同時不況のあおりを受けて組み込みソフトの需要も落ち込む。厳しい時期だからこそ、「ものづくりの原点を追求すべき」と考える。(文中敬称略)
プロフィール
田靡 哲也
(たなびき てつや)1976年、兵庫県生まれ。99年、立命館大学経済学部卒業。同年、情報技術開発入社。04年、NECシステムテクノロジー入社。ハードウェア機器への組み込み用システム「Windows Embedded」を用いた開発に従事。08年、「Windows Embedded」分野での功績がマイクロソフトに認められ「Microsoft MVP」を受賞。