IT業界に飛び込み、すぐにOSの開発に携わった。今のように海外メーカーの部品を調達してコンピュータを製品化するのではなく、日本のメーカー自身がCPU、OS、コンパイラなどすべてを作っていた時代だった。当時、同じ大学の先輩に誘われ、最初の会社に入社。OSの開発にのめりこんだのは、「それ一つでコンピュータすべてに指示を出せるから」だそうだ。
当時は、大型機からミニコンに移り変わろうとしていた時期。汎用機、スーパーコンピュータ、ワークステーションなどの分野用を「メジャーなOS」だとすると、高橋浩和はロケット用のOSや電話交換機用のOSなどいわば「マイナーなOS」に携わってきた、と笑う。「一からすべて作るということは、どれをとっても未完成なので、ハードウェアに故障が出たりすると、直すのが大変だった」と振り返る。
その後、知人の紹介を経てLinuxカーネルなどOSやOSS(オープンソース・ソフトウェア)のノウハウを持つ、VA Linux Systems Japanへ移籍。Linuxが広がりつつある頃で、このOSへの興味が高まったことがきっかけだ。
同社の魅力はベンチャーだけに「何でも自由にできること」と笑顔を見せる。今は「仮想化」に力を入れているが、仮想化、カーネルのノウハウが活かせる「クラウド」を次のビジネスシーズとみている。依然、海外がリードし続けているIT業界。「もっと日本市場をクリエイティブにして、対等に戦える市場を作りたい」と力を込める。夢はOSSをベースに「世界に発信できるモノづくり」。そのカギを握るのが、広がり続ける「クラウド」の世界となりそうだ。(文中敬称略)
プロフィール
高橋 浩和
(たかはし ひろかず) 1962年、北海道生まれ、北海道大学電子工学科卒業。VAX全盛の時代から、各種UNIX系OSの機能強化/カーネルチューニング、大規模システム用リアルタイムOSの開発に取り組む。大手メーカーで各種無停止フォルトトレラント専用コンピュータのOSの開発に従事。ロケット用のOSや、電話交換機用のOSとして採用される。2000年、VA Linux Systems Japanに入社し、技術本部長として、技術開発をリードする。OSS仮想化ソフト「Xen」をはじめとする仮想化技術、クラウドサービスの開発基盤にも携わっている。Linux Kernelハッカーとして、オタワで毎年開催される「Linux Kernel Developers Summit」に招待されている。2005年度日本OSS貢献者賞受賞。「詳解Linux Kernel」の監訳者であり、著書に「Linux Kernel2.6解読室」(共著)がある。