ロフトワークは、創業から9年の会社。従業員数は50人弱、Webサイトや販促物の制作を事業とする。上辺だけみれば、どこにでもありそうなITベンチャーだ。しかし、入社を希望する新卒者は毎年2000人を超える。そんな人気企業を20代後半に立ち上げたのが林千晶さんだ。
ロフトワークの仕事は、顧客と「クリエイター」のマッチング。製品・サービスの特長をうまくPRできる販促媒体が欲しいユーザー企業と、「こだわり」をもつクリエイターの間に入り、全体をコーディネートする。時には、両者の意見が食い違うことがある。そんな場合には、そのどちらの意見も生かしながら調整するわけだ。
優秀な制作者を確保する策として、ITに着眼した。ライターやカメラマン、WebやCG、DTPのデザイナーなどのクリエイター向けコミュニティを考案。SNSなどを活用して情報交換の場をつくった。評価は口コミで広まり、クリエイターの登録者は1万人を超えている。
力量を発揮できる仕事を得たクリエイター、その彼らが作った販促物を手にして喜ぶクライアント、両者のコーディネートを年が若くても任せてもらえる──。これこそが、新卒者が入社したいと願うところであり、ロフトワークが成長している理由だ。
米ネットオークション最大手、イーベイの影響を受け、この仕組みを思いついて起業した林さん。といっても、これまでの道のりはIT一色ではない。小学5年生までアラブ首長国連邦で育ち、マーケティングに魅せられて花王に入社。一転、渡米してジャーナリズムを学び、共同通信社ニューヨーク支局で記者になる。そしてベンチャー企業経営者。
「経歴が多彩? う~ん、でも目的はいつも同じ。人が幸せに暮らすために必要な何かを提供することを常に考えている。その時々で、そのことを実現する手段が違うだけ」。大切にする信念を胸に、時に苦しみながらも楽しく走り抜いている。
プロフィール
林 千晶
(はやし ちあき)1971年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発や広告プロモーションなどを担当する。97年に同社を退社。渡米し、共同通信社ニューヨーク支局に勤務。約1年間、記者として取材・執筆活動に従事する。2000年に帰国し、ロフトワークを設立。