数あるIT調査会社のなかでも中堅・中小企業(SMB)にターゲットを絞り、IT動向を調査するノークリサーチ。IDCやガートナーに比べて知名度は低いが、メーカーやSIerはSMB市場に攻め入る際、ノークリサーチの門を叩くことが多く、経済産業省も中小企業IT化策で同社の力を借りる。このユニークな調査集団で、伊嶋謙二社長の右腕として活躍するのが岩上由高だ。
アナリスト歴はまだ2年ほどだが、ERPやIAサーバー、SaaSなど、ジャンルを問わずに市場調査やユーザー動向を調査。歯に衣着せぬ言動が持ち味で、IT系の雑誌やWebメディアの編集者は、岩上の豊富な知識と冷静な分析力に魅かれ、指名で寄稿を依頼する。その流れで数冊の書籍も上梓してきた。
アナリストとしての実績は乏しくとも、早々と高い評価を得たのは、多彩なキャリアをバックボーンとしているからだろう。
無類の数学好きだった岩上は、大学で物理数学を学んだ後、ジャストシステムに入社し、ソフト開発の道に進む。2年あまりでソニーグループのシステム子会社に移籍。そして、1年も経たずして、グループウェア開発のベンチャーへ。その後、サイボウズの関連会社のフィードパスに移籍し、07年にノークリサーチへ転じた。プログラマを皮切りにSE、プロダクトマネージャーにCTO。末端のソフト開発から技術担当の経営幹部まで幅広く経験を積んできた。
身を置いている環境が、「今後の自分にどう役立つかをそのつど考えてきた」。それが多彩な転職の理由だが、その一方で、本当にやりたいことは何かを模索し、悩んできたことの現れともみえる。
そんな岩上は、これまでとは違って、現在の仕事に一点の曇りも感じていない。「アナリストは天職」と言い切っている。「中長期的なキャリアプランなんて考えていない。今は目の前の仕事一つ一つをしっかりとこなしていきたい。とにかく楽しくて仕方がない」。
「学ぶことを仕事にしたかった」岩上にとって、アナリスト業はまさに格好の職種。SMBを独自の視点で観察し、ユーザー企業の実情と、ベンダーが打つSMB戦略の間にある溝を埋めようと、調査・研究活動に励んでいる。(文中敬称略)
プロフィール
岩上 由高
(いわかみ ゆたか) 1971年、東京都生まれ。96年3月、早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻修了。ジャストシステム、ソニーシステムデザイン(現ソニーグローバルソリューションズ)、フィードパスなどを経て、07年にノークリサーチ入社。シニアアナリストとして、IT産業の調査・研究ほかコンサルティングを手がける。主な著書に「AdobeAIRの基本と実践」(日経BP社刊)などがある。