「いつかデジタル裁判所」をつくりたい―。法学部だった学生時代、香月亜希はお年寄りや体の不自由な人が裁判所に行けない実情を知り、ITで解決できないかと考えて、IT業界を志した。2004年、NTTコムウェアに入社。もともと好奇心が強く、「ITで何ができるのか、今後の可能性を感じた」という。
入社後、官公庁向けの営業を担当した後、自治体の営業に配属された。営業先の自治体の担当者と接するうち、防災関連の情報は主に紙で管理されていることが分かった。有事の際には、物資の調達や住民の避難効率をあげるための計画を立てる必要がある。紙ベースの作業では管理が煩雑になり、情報共有も難しい。
NTTコムウェアでは、2002年から「タンジブル・ユーザー・インターフェース」を研究している。香月は自社の研究開発部や、防災の専門家に話を聞き、この技術を応用して直感的にデジタルで情報管理・共有できるシステムをつくろうと考えた。最初に提案したものが、特注の「センステーブル」にプロジェクタで地図を投影し、パック(駒)を配置しながら、津波の状況や住民の避難時間などを詳細に再現するシステム。ところが「面白いけど、高スペックすぎる」と自治体の担当者は渋い反応。「何せ導入費用だけで、一自治体の全防災予算に相当するため、売れなかった」と、香月は苦笑いする。
市販品を生かし、機能を限定的にすることで、導入しやすい価格帯に抑えられないものか。研究開発部と連携し、「タンジブル災害情報管理システム(デジタルペン版)」として世に出した。これが奏功し、導入に意欲的な自治体も出始めたという。「現場の声を聞き、何が注目され、課題なのかを知り、社内ノウハウと併せることで、ブームとなるソリューションを作り出したい」。ITシステムは技術ありきになりがちだ。香月は営業として顧客をはじめ、専門家やメディアなどで欠かさず情報収集することで、現場主導のシステムづくりを目指している。(文中敬称略)
プロフィール
香月 亜希
(かつき あき)大分県出身。2004年青山学院大学法学部卒業。同年NTTコムウェア入社。入社当初は官公庁営業担当として、IP-NWの提案を手がける。05年からは自治体営業担当として、新しいインタフェースであるタンジブル技術を使った災害ソリューションの企画提案やコールセンターシステムなどに携わる。現在は、09年8月にリリースした新防災ソリューション(「タンジブル災害情報管理システム(デジタルペン版)」)について、災害時の対策本部の業務効率化と災害被害減少に貢献すべく、全国の自治体に向け、営業活動を展開中。