パソコンで一時期の力を失ったデル。パソコンはコモディティ化し、差異化しにくい商品になった。そんな逆境の下、パソコンの魅力を伝えるマーケッターが、一度は離れたデルに戻った伊田聡輔だ。
商社マンだった父親に憧れ、新卒で総合商社に入った。配属部門は、伸びそうな商品と業界を選んで市場調査や協業会社との交渉、政府機関との調整を行う「市場業務部」。商社マンにとっての花形部門であり、戦略組織だ。就職氷河期だったこの時に入社した新卒社員約80人で、市場業務部には二人しか配属されていない。
しかし、誰もが憧れるこのポストをあっさりと捨てる。「机上で戦略を考えるよりも、営業の現場にいたかった」。
伊田は、『BTO・直販』に斬新さを感じたデルを志望。「営業をやらせてくれなければ入社しない」と採用面接で啖呵を切った。
大手総合商社の“大本営”から、コンシューマにパソコンを電話で提案する道を自ら選ぶ。仕事の醍醐味は薄まったように思えるが、伊田にとっては「ビジネスの楽しみと厳しさをここで知った」。その後、マーケティングに魅せられ、それを極めるために大規模な組織を求め、日本マイクロソフトに移籍。そこで力を蓄えてデルに復帰した。
「BTOで直販、低価格を打ち出して急伸したデルは、パソコンを普及させた立役者。ある意味、世間がいうところのコモディティ化の一端を担った。パソコンは確かに浸透はしたが、コモディティ化したとは思っていない。独自性を訴える方法はまだある」。伊田の目には、今のパソコン市場はマーケッターの本領を発揮できる環境にあると映る。商社の頭脳と営業の最前線を経験し、外でマーケティングを学んで戻ったマーケッターが、デルを再び急伸させようとしている。
プロフィール
(いだ そうすけ)1977年2月、東京都生まれ。99年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、丸紅に入社。02年、デルコンピュータ(現・デル)に移籍。06年にはマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に移り、Windowsのプロダクトマネージャーを務めた。09年、デルに復帰。コンシューマおよび中堅・中小企業(SMB)市場に対するマーケティングを手がける。