スマートフォンがビジネスシーンで日常的に使われる今、企業はスマートデバイスからの情報漏えいの防止に神経を尖らせている。ITベンチャーのコネクトワンで社長を務める吉田晋は、業界に先駆けてスマートフォンの情報セキュリティビジネスに着目した一人だ。今年度(2012年3月期)の同社の売り上げは「前年度比2倍はいける」と、鼻息が荒い。
脱サラしてITベンチャーに身を投じた吉田は、2005年に自らトップを務めるコネクトワンを立ち上げる。当時は企業の情報システムを携帯電話で閲覧することに重きを置いたが、2008年秋のリーマン・ショックを境に、パタリと注文が途切れた。「ケータイで業務システムを閲覧するブームは下火になり、一時は会社をたたもうかとも考えた」。それでも諦めずに、当時はまだ目新しかったスマートデバイス領域への進出に挑んだ。
スマートフォンのデータ保存や画面キャプチャ機能の抑制、情報を抜き取る不正アプリケーションへの対応など、開発担当で共同創設者の同社CTOの天野孝則をはじめとするメンバー全員で力を合わせて次々とつくっていった。開発リソースが限られるなかでも、「業務で使うときだけセキュアであればよい」という引き算のアプローチで、めまぐるしくバージョンアップしていくiOSやAndroid OSを巧みに制御するシステム「ConnectONE」の完成度を高めた。
マルチベンダー、マルチデバイスを重視するSIerの「Connect ONE」に対する評価はひときわ高く、販路も着実に広がっている。経営リソースが限られても、アイデアと技術、そして諦めない粘り強さによって、チャンスをものにしたのだ。(文中敬称略)
プロフィール
(よしだ すすむ)1962年、北海道生まれ。86年3月、早稲田大学理工学部卒業。同年4月、本田技術研究所に入社。00年、ビジネスモバイルサービスのいいじゃんネット設立に参加。05年、コネクトワン設立。代表取締役社長に就任。