TISの西部一英は、スマートデバイスの可能性に魅せられた一人だ。もともと組み込みソフトの技術者である西部は、海の向こうでAndroid OSの構想が明らかになるのとほぼ同時期に、社内の有志を募って技術研究会を立ち上げることに奔走した。モバイル系のスマートデバイスと関連の深いGPS(全地球測位システム)やAR(拡張現実)の技術検証も並行して進めてきた。
組み込みソフトの存在感を広く認知させるきっかけにもなった日本の携帯電話──。これまで世界に誇るべき技術だと思っていたものが、ガラパゴス化して色褪せていく様を、「技術者の一人として、ただ見守るしかなかった」と、悔しさをにじませる。
西部ら有志メンバーが導き出した解法の一つが、今年7月に発表した「SkyWare(スカイウェア)」だ。GPSとARの機能を活用したコンテンツ配信プラットフォームで、例えば市街でスマートフォンをかざすと、画面に映し出される街の風景に埋め込んだ情報を浮かび上がらせる。地図に位置情報をプロットし、関連情報をARの手法を使って呼び出すところに新規性を見出した。西部が勤務する長野県の事業所からほど近い佐久市が、観光ナビゲーションシステムとして採用したのに続き、博多の御供所まちづくり協議会もこのサービスを利用し始めている。
ビジネスシーンでは「例えばビルメンテナンスなどの設備保守で、対象となる設備にデバイスをかざせば必要な情報が表示される」といった用途を見込む。ただ、それ以上に「日本の組み込みソフト産業を再び活性化させたいし、地元長野を産業再生に向けた情報発信拠点にしたい」と意気込む。(文中敬称略)
プロフィール
(にしべ かずひで)1974年、長野県千曲市生まれ。97年、東海大学開発工学部を卒業し、エムケーシー・スタット(旧ソラン、現TIS)に入社。プリンタやデジカメ、モバイル機器の組み込みソフト開発に従事する。スマートフォンのGPSとARの機能を活用してコンテンツ配信を行う情報配信プラットフォーム「SkyWare」開発プロジェクトに参画。