シャノンは、イベントの運営をサポートするシステムを、クラウドで提供する。年商は5億4000万円と小さいが、伸び率は前年度比64.5%増。今伸び盛りだ。中村健一郎は、大学在学中にシャノンを設立した。もともと起業意識があったわけではない。今の道を選んだのは「何にも興味がもてなかったから」。
大学では理工学部で化学を学んでいたものの、進学も研究者になることにも、就職にも興味がわかなかったという。「進みたい道がみつからないことを考えすぎて、半ば病気。生きる価値がない人間だと自殺も考えた」と、包み隠さずに当時のことを語る。そんな精神状態で会社をつくったのは、「その時に両親の顔を思い浮かべて、悲しませてはいけないと踏みとどまり、親のありがたさを感じた。同時に親がいない子どもの顔も頭に浮かんだ。そして、親がいない子ども100人を、育てる支援ができる自分になろうと目標を立てた」。社会貢献にはさまざまな方法があるが、「近道は自ら事業を起こすことだと思った」。利益を得て、社会に還元する。それが中村の起業のきっかけで、生きるうえでのモチベーションだった。
イベント運営支援に特化したシステムがなかったので、本を見ながらつくり、ネットを通じてシステムを提供する形態が主流になると見込んで、04年にASPサービスを開始。試行錯誤と紆余曲折を経て、今の事業モデルにたどり着いた。「シャノンをつくって多くの人にお世話になり、今は責任とやりがいを感じている。マーケティングに必要なシステムといえばシャノン。そういわれるようになれれば」と、新たな目標もできた。「やりたいことがない」と悩んでいた過去の姿は、今の中村からは微塵も感じられない。(文中敬称略)
プロフィール
(なかむら けんいちろう)1977年、奈良県生まれ。慶應義塾大学理工学部に入学。4年生の時に「有限会社シャノン」を設立し、代表取締役CEOに就任した。イベント・展示会運営会社向けの管理システムを受託開発・販売事業を展開。その後、幅広い業種・業界に対して、セミナー・イベント管理システムを販売する。昨年度(2011年5月期)の年商は約5億4000万円で、前年度に比べて64.5%伸びた。