NECソフトの青木利憲は、組み込みソフトやRT(ロボットテクノロジー)分野の若手ホープとして期待されている技術者だ。YRPユビキタス・ネットワーキング研究所への出向や、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のロボット関連プロジェクトへの参加を通じて、リアルタイムOSの「TRON」や、産業技術総合研究所が中心になって開発を進めているRTミドルウェアの研究に従事してきた。
青木が、今、痛感しているのは、かつて「日本のお家芸」と称された組み込みソフトの凋落ぶりである。日本はハードウェア中心で、制御ソフトは付属品扱い。「新しいハードをつくるたびに、新しいソフトをつくり、複数世代間で共通して使えるようなサービスプラットフォームを構築できなかったことが敗因」と、自戒を込めて青木は分析する。この閉塞状況を打開するには、「ソフト開発」ではなく「サービス開発」に軸足を移さなければならない。
あるとき、応援で入ったスマートデバイスの開発現場でのこと。大勢のソフト技術者が昼夜の別なくOSのバグ取りをしていた。探査機「はやぶさ」のプロジェクトでは、自律航行をリモートで制御し、状況の変化に合わせて柔軟に運用を変えるソフト技術を開発してきたNECグループだが、実ビジネスでは、状況が変わるたびにソフトをつくり直し、過去の資産を浪費する一端を垣間見たような気分を味わった。
青木は「われわれ若手技術者が、サービス化や新しい市場の創造をやらなければならない。そのために、チームで動く組織力や機動力、リーダーシップを担う。個々人がばらばらに動いていてはダメだ。日本の組み込みソフト技術を再興し、再び世界を驚かせる」と、静かな口調ながら熱っぽく語る。(文中敬称略)
プロフィール
青木 利憲
青木 利憲(あおき としのり)
1977年、北海道釧路市生まれ。2002年、北見工業大学大学院卒業。同年、NECソフト入社。04年、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所出向。08年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」に参画。現在は航空宇宙関連事業に従事。